国内産業を外国との競争から守るために輸入品に課する関税。関税が課せられるとその分だけ輸入品価格は上昇するので、輸入品需要は減少する。一方、輸入品と競争的立場にある商品を生産している国内産業は、関税分だけ輸入品の国内価格が上昇するのに応じて国内供給を増加しうるという保護効果を受けることになる。このように、保護関税は価格メカニズムの作用に基づき輸入を調整し、国内の産業を保護する。ガット(GATT、関税および貿易に関する一般協定)やその後身の世界貿易機関(WTO)が、輸入の量的制限を否定し、関税の引下げを意図しているものの、その除去を規定していないのは、保護関税がこのように価格メカニズムに即した貿易政策の主要な手段であるからにほかならない。保護関税の代表的なものとして、育成関税(教育関税)と維持関税とがある。前者は、将来の成長性は期待しうるが現在は幼稚である国内産業を保護・育成する目的のものであり、経済的進歩のための関税といえる。後者は、すでに国際競争力が失われた産業であるが、生産を縮小すると大量な失業の発生など大きな社会問題となるので当面この産業を維持しなければならないという目的のものであり、社会的安定のための関税といえる。保護関税はこのほかに、保護期間の長短により一時的保護関税と長期的保護関税、保護の対象となる産業により農業保護関税と工業保護関税、税率の程度により禁止関税と適度の保護関税(制限関税)などに分類されている。
[田中喜助]
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…関税は貿易政策の代表的手段と考えられているが,財政収入を主たる目的とする関税と,産業保護を主たる目的とする関税とがある。前者を〈財政関税〉,後者を〈保護関税〉という。中世以前の関税や第1次大戦前のイギリス,オランダ等の自由貿易主義国の関税は,もっぱら財政収入を目的としていたし,19世紀前半のアメリカでは,財政収入のうちの90%近くを関税収入が占めていた。…
…国定税率も一層引き上げられ,ここに初めて日本は関税による保護政策を展開する基盤を与えられたといえよう。こうして精糖,綿糸布,毛織物,ガラス,洋紙,ペイントなどの産業は,保護関税のもとで輸入対抗力を強め,その発展がもたらされた。しかし,重工業関係とりわけ基礎的素材たる鉄鋼に対しては,紡績業との関係を背景においたイギリスへの配慮(原料綿花はイギリス植民地のインドから輸入)から低関税率あるいは協定税率据置きとなり,重工業育成は十分にはなされえなかった。…
※「保護関税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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