柱状の物体を流体中で適当な速度で動かすと、物体の左右両側から交互に反対向きの渦を発生し、規則正しい渦の列ができる。この現象はフランスのベナールによって実験的に研究された(1908)が、ハンガリー出身のアメリカの航空学者カルマンによってその本質が理論的に解明された(1911)ので、カルマン渦とよばれている。渦列の間隔をh、一つの列の中の渦どうしの距離をaとすると、理論的にはh=0.281aとなることが予想され、実際にもh/aはだいたい0.3である。
渦の放出によってエネルギーが消費されるので、運動する物体は流体から抵抗を受ける。また渦を放出するごとに、その反作用として物体には横向きの力が働く。水中で棒を動かすとき、棒が左右に振動するのはそのためである。細い棒や針金に強い風が当たると、カルマン渦の放出により、それと同じ振動数の音が発生する。これはエオルス音とよばれる。風の吹くとき電線が嗚るのはその例である。弾性のある棒のようにそれ自身振動しうる柱状物体に流れが当たるとき、カルマン渦の発生の周期と物体の固有振動の周期が一致すると、共鳴によって振動は激しくなる。北アメリカのタコマ峡湾の吊橋(つりばし)が完成後まもなく暴風によって崩壊した事件(1940)は、このカルマン渦の発生によるものとして有名である。
[今井 功]
流体中を適当な速度範囲で運動する柱状体の背後にできる,回転の向きが反対の2列の渦。この渦が交互に発生して,図のような配置をとることは20世紀初め,イギリスのH.R.A.マロックやフランスのH.ベナールによっても観察されていたが,1911年T.vonカルマンが完全流体の場合について渦の安定・不安定を理論的に導いたことからこの名がある。その理論によれば,渦列の幅をh,列内の渦間隔をlとしたとき,h/l=0.281で,しかも図に示したような配置のもの以外は不安定となる。風によって生ずる電線のうなり(エオルス音)や,つり橋などの構造物,風による破壊などもカルマン渦の発生に関係することが多い。
→渦
執筆者:橋本 英典
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…円柱の速さが大きく,多数の渦が発生して渦列を作るときは,対称な配置のものは不安定で,交番して発生して互い違いに並ぶ。これをカルマン渦というが,さらに速度が大きいとこれもくずれて乱流となる。 曲がった渦糸の各部はまわりの流れのために伸び縮みし,動かされるが,とくに強くて細いときはその強さと曲率に比例した速度で接触面に垂直に動かされ,またそれに沿っての孤立波や振動の担い手になる。…
…冬季に日本海沿岸に大雪をもたらす小低気圧による小渦状雲(直径数km)も衛星の画像で発見される。また冬に北西の季節風が強く吹くとき,韓国の済州島の風下にはカルマン渦による雲列が見られることがある。これは物理実験などで見られる円柱の背後のカルマン渦列が大自然の中に存在することで大変興味深い。…
※「カルマン渦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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