カロチン(読み)かろちん(その他表記)Carotin ドイツ語

デジタル大辞泉 「カロチン」の意味・読み・例文・類語

カロチン(carotin/carotene)

カロテン

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精選版 日本国語大辞典 「カロチン」の意味・読み・例文・類語

カロチン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] carotene, carotin ) ニンジントウガラシ卵黄などに含まれる、赤黄色の色素。動物の体内ではビタミンAにかわる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カロチン」の意味・わかりやすい解説

カロチン
かろちん
Carotin ドイツ語
carotene 英語

カロチノイドのうち、分子中に酸素を含まないものをいう。カロテンともよぶ。いわゆるカロチノイド炭化水素で、カロチンは約60種存在する。おもなものにα(アルファ)-カロチン、β(ベータ)-カロチン、γ(ガンマ)-カロチン、リコピン(トマトの果実に含まれる赤色の色素)などがある。α-カロチンとγ-カロチンはβ-カロチンと相伴って存在し、量もβ-カロチンに比べて少ないため、最初は1種のものとみなされていた。カロチンという名称も、これらの混合物をさしていた。黄~赤の色素で酸素に対して不安定で、酸化されると無色になる。抗酸化作用を示すことから、生活習慣病の予防効果があるといわれている。

[飯島道子]

プロビタミンA

α-、β-、γ-の各カロチンは動物体内でビタミンAに変わるプロビタミンAである。ビタミンA(C20H30O)は2個のイソプレン単位をもつポリエンアルコールである。分子構造は、β-カロチン分子が中央で切断され側鎖の末端炭素にアルコール基を有するという特徴をもつ。3種のカロチンのビタミンA活性を比較すると、β-カロチンはα-およびγ-カロチンの2倍である。このことからプロビタミンAは、生体中では分子の中央で酸化を受けて切断され、ビタミンAアルデヒドとなり、さらに還元されてビタミンAに変わると考えられる。動物体内では腸壁から吸収されるが、吸収率は約30%とされている。

[飯島道子]

生体内での合成

さまざまな研究から、合成の原料としては酢酸が考えられており、これがメバロン酸を経て炭素原子5個(C5)のイソプレン単位ができ、さらに炭素原子がC10→C20→C40となり、異性化、段階的脱水反応による不飽和鎖の形成、ベンゼン環(C6)の形成を経てカロチンが生成すると考えられている。α-とβ-カロチンは緑葉中にかならず存在し、クロロフィルとともにみいだされ、光合成に関係していると考えられている。秋、クロロフィルが分解すると、それまで緑色で隠されていたカロチンの色が認められるようになる。しかし、鮮やかな赤や黄色の色素はカロチンでなく、アントシアンおよびタンニンの重合物である。4種のカロチンの分子式はいずれもC40H56で、互いに異性体である。

[飯島道子]

α-カロチン

紫色板状結晶。1931年ドイツの有機化学者R・クーンらによってニンジンのカロチン(β-カロチンを主とする)から発見された。植物界に広く存在し、β-カロチンとともにみいだされるが、量は少ない。例外として、緑藻類のミルではα-カロチンとβ-カロチンの量比が逆になっている。

[飯島道子]

β-カロチン

赤紫色柱状ないし板状結晶。ニンジンの赤色はβ-カロチンで、1831年ドイツの薬化学者ワッケンローダーH. W. F. Wackenroder(1798―1854)によりニンジンから発見された。緑葉中にはつねに存在し、果実、花、根にも含まれる。β-カロチンを酸化還元することによって、人工的にビタミンAが得られる。安全な色素なので、チーズバターマーガリンの着色剤として広く使用されている。癌(がん)の予防効果については、1980年ころから多数の報告がある。1990年以降の疫学的調査では有効性を示す結果もあるが、否定的な結果も多い。したがって、より詳細な検討および調査・研究が必要とされている。

[飯島道子]

γ-カロチン

赤色板状結晶。1933年R・クーンらによって発見された。植物界に広く分布し、果実や花弁に含まれるが、緑色部分にはほとんどみられない。含有量は一般に少ないが、クロロフィルをもたない寄生植物のある種のものでは、おもなカロチノイドとして存在する。

[飯島道子]

リコピン

赤色釘(くぎ)状ないし紫色柱状結晶。トマトの赤色はリコピンで、カロチンのうちではとくに酸化されやすい。1875年フランスの植物学者ミラルデP. M. A. Millardet(1838―1902)によって発見され、1910年にカロチン(α-・β-・γ-カロチン)の異性体であることが明らかになった。植物界に広く存在し、量も多い。果実や花弁に多く、緑色部分にはほとんどみられない。リコピンは前記カロチンのようなプロビタミンAではないが、血清脂質、リンパ球の酸化障害およびDNAの酸化損傷に着目した抗酸化作用に関する研究から、抗酸化活性はプロビタミンA活性がもっとも高いβ-カロチンと差がないことが示されている。

[飯島道子]

『武藤泰敏著『レチノイド・カロチノイド』(1997・南山堂)』『坪野吉孝・久道茂著『栄養疫学』(2001・南江堂)』『日本ビタミン学会編『ビタミン総合事典』(2010・朝倉書店)』『R・K・マレー他著、上代淑人・清水孝雄監訳『ハーパー生化学』原書28版(2011・丸善)』


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改訂新版 世界大百科事典 「カロチン」の意味・わかりやすい解説

カロチン
carotene

カロチノイド色素の中で生物界に最も広く分布する代表的物質。カロテンとも呼ぶ。分子式C40H56を有する炭化水素。分子の中央に存在するポリエン鎖をはさむ両端のイオノン環の構造によりα,β,γ,δ,εなど多くの異性体が存在する。リコピンlycopeneもカロチンの異性体であり広義のカロチンに含むこともある。β-カロチンはその中で最も広く分布しまたその量も多い。ニンジンの根,トウガラシの実,また緑葉中にクロロフィルとつねに共存する。動物体では脂肪にとけて存在し卵黄に多い。α-カロチンも広く分布しているが量は少ない。γ-カロチンはさらに少なくβ-カロチンを含む果実に多く含まれている。β-カロチンは暗赤色の結晶として得られ,クロロホルム中では,497nmおよび466nmに吸収極大を有する。空中酸素により容易に酸化される。カロチンは動物体内で酸化され2分子のビタミンAに変化し,さらにビタミンAアルデヒド(レチナールretinal)となり視覚の光受容に重要な機能をもっている。また補助色素として光合成に関与し,光の破壊作用からの保護機能などを有している。
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百科事典マイペディア 「カロチン」の意味・わかりやすい解説

カロチン

化学式はC4(/0)H56。代表的なカロチノイド色素。カロテンとも。赤色で,α,β,γなど数種の異性体があり,天然にはβ‐カロチンが最も多い。一般に葉緑体やニンジンの根,パプリカなどに含まれ,葉緑素が行う光合成の光化学反応を助ける。動物体内でビタミンA(レチノール)とビタミンAアルデヒド(レチナール)に変換され,視覚の光受容に重要な機能をもっている。

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栄養・生化学辞典 「カロチン」の解説

カロチン

 →カロテン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カロチン」の意味・わかりやすい解説

カロチン

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世界大百科事典(旧版)内のカロチンの言及

【カロチノイド】より

…動植物界を通じ広範な分布を示す黄色,だいだい色ないし紅色を呈する一群の色素の総称。この名はこの色素群の代表であるカロチンに基づいてツウェットM.S.Tswettにより命名された。彼はこれらの色素の中で炭化水素溶媒に可溶のものをカロチン,炭化水素溶媒にとけにくく,メタノールにとけやすいものをキサントフィルとした。…

※「カロチン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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