炭素の同素体の一つ。1991年(平成3)日本の飯島澄男は電子顕微鏡でフラーレンを観察中、フラーレンが横に延びて円筒状になり、一端が丸く閉じている分子をみいだし、それをカーボンナノチューブと名づけた。 のようなラグビーボール形のフラーレンの長径がそのまま延びて一端の閉鎖部分が切断された構造で、円筒部分の直径がナノメートル(nm。1メートルの10億分の1)程度のものである。すなわち炭素の6員環網目構造が円筒をつくり、一端が5員環と6員環の組合せで(ちょうどフラーレンC60の半分)閉じた構造の分子をつくっている。この発見をもととして、それ以降各種のものがみいだされ、また各種の製法が確立されて、この分野が発展することとなった。
カーボンナノチューブは単層のものと、二つ以上の円筒が重なった多層のものとがある。単層のものは細いもので0.7ナノメートル(0.7ナノメートル=7ÅでフラーレンC60の直径と同程度)、太いもので3ナノメートル以上である。多層ナノチューブは2層程度から数十層までのものが知られており、外形が50ナノメートル程度のものもある。層と層の間は0.34ナノメートルで、円筒の長さはかなり長いものがあり、10マイクロメートル(1ナノメートルの1万倍)以上のものもある。
カーボンナノチューブは中空の管であるから、その大きさによっては各種の分子、原子などを取り込むことができる。たとえば金属原子を閉じ込めたフラーレン分子をそのまま取り込んだりもする。
多くの製法が確立されており、アーク放電、レーザー照射などによって多層分子が得られる。また炭化水素たとえばベンゼン、トルエン、ヘキサンあるいは一酸化炭素などを1100~1200℃の反応器内で分解し、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属の超微粒子を触媒として単層分子が得られる。この方法は大量生産が可能であり、また原料、触媒、反応条件を変えることによって各種のカーボンナノチューブをつくることができる。
カーボンナノチューブは、フラーレンと違って有機溶媒に溶けないが、化学的に安定であり、導電性で機械的強靭(きょうじん)性などすぐれた性質をもっているため、微小電子デバイス、探針プローブ、その他多くの用途が開発されている。またこれにしたがって生産量も大きなものとなっている。
単層のカーボンナノチューブの先端が円錐(えんすい)状に閉じて数十ナノメートルに延びたものはカーボンナノホーンといっており、製造が容易なため、各種の用途が期待されている。
[中原勝儼]
『齋藤弥八・坂東俊治著『カーボンナノチューブの基礎』(1998・コロナ社)』▽『飯島澄男著『カーボンナノチューブの挑戦』(1999・岩波書店)』▽『田中一義編『カーボンナノチューブ――ナノデバイスへの挑戦』(2001・化学同人)』▽『飯島澄男・齋藤理一郎・安藤義則・湯村守雄・湯田坂雅子・中山喜萬・齋藤弥八・岩佐義宏他著『カーボンナノチューブ――期待される材料開発』(2001・シーエムシー)』▽『田中一義・中山喜萬・矢田静邦・村上裕彦・谷垣勝巳・曽根田靖・遠藤守信・吉村昌弘他著『カーボンナノチューブの基礎と工業化の最前線』(2002・エヌ・ティー・エス)』▽『『カーボンナノチューブの合成・評価、実用化とナノ分散・配合制御技術』(2003・技術情報協会)』▽『齋藤理一郎・篠原久典編『カーボンナノチューブの基礎と応用』(2004・培風館)』
単分子層あるいは数分子層の黒鉛シートを筒状に巻いた構造で,直径0.4~50 nm,長さ数 μm 程度の円筒構造炭素結晶.炭素の同素体の一つ.アーク放電やレーザー蒸発,CVD(chemical vapor deposition)によって作製される.たとえば,二つの黒鉛棒の間に直流電流をかけてアーク放電を発生させると負電極に生成し,このとき,CoやNi,Feなどの金属触媒が存在していると単層のナノチューブが得られる.黒鉛シートの巻き方(らせん度)による構造の違いで,電子構造が金属的,あるいは半導体的になる.また,数十 GPa の引張強度や高い熱伝導性,水素吸蔵特性,比較的低電圧で電子を放出する特性などを有しており,今後の応用が期待される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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