改訂新版 世界大百科事典 「キジムシロ」の意味・わかりやすい解説
キジムシロ (雉蓆)
Potentilla sprengeliana Lehm.
日向に生え,関東以西では早春の頃,多数の黄色の花をつけるバラ科の多年草。キジが座る蓆(むしろ)という意味から和名がつけられたという。地下茎は太く,根出葉は羽状複葉で7~11枚の小葉からなり,托葉がある。平地では3~6月,5~25cmの花茎を出し,次々と花を咲かせる。花径1.5cm前後,花弁5枚,萼片および副萼片各5枚,おしべ20本,めしべ多数,果実は瘦果(そうか)である。アムール地方,朝鮮半島,中国にも産するが,日本では,北海道から九州まで広く分布し,変異は大きい。走出枝を出すツルキジムシロP.fragarioides L.,小葉が3~7枚でひし形になるエチゴキジムシロP.togasii Ohwiなどは似た種類である。
キジムシロ属の植物はほとんど汎世界的に分布するが,とくに北半球の温帯に多く,約500種ある。いくつかの種は薬用や観賞用に植栽される。ほとんどの種は多年生草本であるが,なかには茎が木化して,キンロバイのように低木のようになるものもある。また,一年生の草本も存在する。この属はイチゴ属やヘビイチゴ属と類縁が近い。日本には22種分布するが,クロバナロウゲ,キンロバイ,ギンロバイなどは別属として分類する学者もいる。属名のPotentillaは,この属のヨーロッパの種で薬用として用いられたものが,強い薬効があると信じられ,potens(ラテン語で効力ある,強力な)から,つけられたと言われている。ツチグリ(土栗)P.discolor Bungeは,キジムシロに似るが,葉の裏に白綿毛があり,真っ白に見える。肥厚した根が生食できることから,その名前がつけられたという。日本では,近畿地方以西の本州と九州に分布する。根出葉は15枚以上の小葉からなり,やや裏は白く,葉縁は深く羽状に切れこむカワラサイコ(河原柴胡)P.chinensis Ser.は,海岸や河原に見られる。薬用とされ,日本では,北海道以外の温暖な地に分布する。根茎が薬用とする柴胡に似ることから名づけられた。高山の草原や,やや湿った砂礫(されき)地に生えるミヤマキンバイ(深山金梅)P.matsumurae Th.Wolfは,葉は3小葉からなる。花期は7~8月で,高山植物の代表的なものである。白山以北の本州と北海道の高山に分布する。地下茎が肥厚するミツバツチグリP.freyniana Bornm.は,名のとおり葉は3小葉からなる。日向の丘陵地や山地に生え,走出枝を出して幼植物を作る。冬季は地上の葉を枯らし,地下茎に貯蔵用のデンプンをためる。日本では,九州から北海道まで,広く分布する。葉が掌状5小葉からなるオヘビイチゴ(雄蛇苺)P.kleiniana Wight et Arnottは,やや湿った原野に生え,5~6月,20~30cmの花茎をのばし,直径約1cmの黄花をつける。倒れた花茎の節から発根し,幼植物をつくることがある。葉がヘビイチゴに似るところから,和名がつけられたが,ヘビイチゴの仲間ではない。朝鮮,中国,インド,マレーシアに分布し,日本では,北海道を除く各地に見られる。
執筆者:鳴橋 直弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報