キーストーン種(読み)キーストーンシュ(英語表記)Keystone species

デジタル大辞泉 「キーストーン種」の意味・読み・例文・類語

キーストーン‐しゅ【キーストーン種】

ある地域生態系において、個体数は少なくても環境に大きな影響を与える種。その種が絶えると、地域の生物群集構成が大きく変化する。中枢種。鍵種。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キーストーン種」の意味・わかりやすい解説

キーストーン種
きーすとーんしゅ
keystone species

生態学用語の一つ。存在する個体数は少なくとも、その種がいなくなると、生態系が大きく変化してしまうような、生態系の安定性や多様性を保つうえで不可欠な種をさす。中枢種ともいう。キーストーン(要石(かなめいし))とは、石や煉瓦(れんが)を積み上げてつくられたアーチの最頂部に挟み込まれ、全体を固定させる楔形(くさびがた)の石である。

 キーストーン種という考え方は、1969年にアメリカの動物学者ペインRobert Treat Paine(1933― )によって発表された。ペインは北太平洋の潮間帯の食物連鎖において、その頂点に位置するヒトデを取り除いた実験によってキーストーン種の存在を証明した。ヒトデを取り除いたことで、捕食されていたイガイが大量に増殖したことをきっかけに、潮間帯の生態系そのものが崩れた。以降、1998年に証明された北太平洋沿岸でコンブ目の海藻ケルプの生息地に住むラッコをはじめ、多くのキーストーン種が発見されている。

 生物の生態系は、現在も十分に理解されたとはいえない状況にあり、近年は、自然保護観点からもキーストーン種の存在が重要視されている。生物多様性保全を効率的に行うために、その種が生態系に与える影響を理解して保護や管理を行うことが不可欠になっている。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キーストーン種」の意味・わかりやすい解説

キーストーン種
キーストーンしゅ
Keystone species

生息する群系(→バイオーム)に大きな影響を与える種。中枢種ともいう。群系のほか個体群を抑えたり,幅広い種に利用されたりすることで,群系内の生物多様性を維持する役割をもつ。キーストーン種という名前は,1969年にアメリカ合衆国の動物学者ロバート・T.ペインが命名した。アーチ型の建造物の頂部を支えるくさび形の石,キーストーンに由来する。建造物のほかの石がキーストーンに支えられているように,生物群系のほかの種や群系の多様性は,キーストーン種の存在に依存している。

たとえば北アメリカの北西海岸沖の岩場では,ヒトデの一種 Pisaster ochraceus がキーストーン種として知られ,群系の多様性の維持に重要な役割を果たしている。このヒトデはムラサキイガイ Mytilus californianus を餌としており,実験的にヒトデを除去すると,ムラサキイガイの個体数が急速に拡大し,岩礁(磯)が覆われ,ほかの種が生息できなくなってしまう。したがって,ヒトデとイガイの関係が,この群系の環境と種の多様性を維持するのに役立っていることがわかる。ただし場所が変わると群系にほとんど影響を及ぼさないことから,このヒトデがどの場所でもキーストーン種となるわけではない。ほかに,アメリカの熱帯の森林ではイチジクの一種がキーストーン種として知られる。そのイチジクは一年を通じて結実するため,餌が少ない時期には多くの鳥類,哺乳類がイチジクに依存しており,食料の要となっている。

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