翻訳|quiz
謎々(なぞなぞ)などの謎解きその他の考え物のこと。1791年、ダブリンの劇場支配人デイリーが造語したことばである。18世紀の終わりごろから流行俗語となった。本来は、教師が生徒に質問する口頭試問や簡単なテストの意であったが、現在はもっぱら、出題者の質問に対して機知や知識で即答する遊びをクイズとよんでいる。類似の意味のことばにパズルpuzzleがあるが、クイズはおもにことばや文章による出題に答えるものをいい、パズルは図形、イラスト、文字の配列などを使用し、ある程度考える時間が与えられる判じ物のことをいう。クイズということばは新しいが、謎解きの歴史は古く、紀元前3000年ごろの古代文明の時代にすでに幼稚なものが行われていたのではないかといわれる。そのうちでは、ソフォクレスによって伝えられたスフィンクスの謎「朝に四脚、昼に二脚、夜には三脚で歩く動物は何か?」がもっとも有名である。日本での起源は明らかでないが、平安時代中期の『拾遺(しゅうい)和歌集』や『清少納言(せいしょうなごん)日記』などのなかに謎解きの和歌や記事があり、鎌倉時代の『徒然草(つれづれぐさ)』のなかには宮廷の人々が「なになにとかけて、なにと解く」という「謎々遊び」に熱中しているさまが記されている。また、1516年(永正13)に刊行の後奈良院(ごならいん)御撰(せん)『何曽』の「母には二たびあひたれど父には一度もあはず―くちびる」の一節から新村出(しんむらいずる)博士がこの時代にハ音がfa(両唇摩擦音)であったと論証したことは有名である。江戸時代になると庶民的な遊びとして流行し、1624年(寛永1)に『謎乃本』、1706年(宝永3)に『御所なぞの本』が刊行されている。さらに「絵さがし」「迷路」などが行われるようになった。第二次世界大戦後は1946年(昭和21)12月にNHKのラジオ番組に「話の泉」、47年11月に「二十の扉」というクイズ番組が登場して人気をよび、週刊誌や雑誌にもいろいろなクイズが懸賞をつけて掲載されるようになり、その後ラジオ、テレビにはいろいろな趣向を加えたクイズ番組が放送され、現在では放送番組に欠かせない人気番組になっている。アメリカでも、1955年からCBSテレビが始めたクイズ番組「6万4000ドル」が爆発的な人気をよび、類似の番組が続々生まれたが、59年に、プロデューサーが事前に特定の回答者に正解を教えていたクイズ・スキャンダルが発覚し大きな問題となった。
[倉茂貞助]
『柴田武他編『世界なぞなぞ大事典』(1984・大修館書店)』
教授の試問の意味もあるが,一般にはゲーム的な質問と解されている。しかしクイズにはっきりした定義はない。広い範囲で考えれば,ことばによるなぞ遊び,文字や絵による判じ物,知識や数理で解かせる出題,図形を使った出題,パズルなどすべてこのなかに入る。なかでも歴史的に古いものはなぞ遊びで,古代民族のなかにはなぞを出題して客をもてなす風習をもつ民族もあったという。ギリシア神話に出てくるスフィンクスのなぞ解きや,戦国時代魏の話とされる中国の〈箸なぞ〉が知られている。日本でもなぞ遊びの歴史は古く,平安時代の宮中で当時の上層階級の者たちがなぞ遊びに興じたようすが《枕草子》にえがかれ,《宇治拾遺物語》には12個の〈子〉の字を示して〈ねこの子,子ねこ,ししの子,子じし〉と読ませる文字なぞも出てくる。《徒然草》にある〈牛の角文字〉の文字なぞも有名である。数学的なものとしては,江戸時代初期の数学者吉田光由の著した《塵劫記(じんこうき)》(1627)や毛利重能(もうりしげよし)の《割算書》(1622)のなかにも,数学問題として数学クイズに似たものが出題されている。
クイズに近代感覚を盛り込んだパズルが日本で盛んになったのは明治後半からで,西洋文化の摂取によって出版物が増えだすと,欧米からの移入とみられるパズルが,ときの児童雑誌《少年園》や風刺雑誌《団々珍聞(まるまるちんぶん)》などに盛んに取り上げられるようになった。外国でもパズルは盛んで,パズル作家としては,アメリカ人のS.ロイドやイギリス人のH.E.ジュードニーが有名である。現在でも世界的な人気を保っているクロスワードパズルは1913年《ニューヨーク・ワールド》紙の日曜版に初登場して評判になった。クイズは手軽な知的遊戯として放送界や出版界で盛んに取り上げられているが,今後も時代に即した形式や内容を生みながら庶民生活のなかで生き続けるものと思われる。
→謎(なぞ) →パズル
執筆者:田淵 秀明
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