クラウス(Hugo Maurice Julien Claus)(読み)くらうす(英語表記)Hugo Maurice Julien Claus

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

クラウス(Hugo Maurice Julien Claus)
くらうす
Hugo Maurice Julien Claus
(1929―2008)

ベルギー、フランドル(オランダ語圏)の作家、詩人劇作家、演出家、画家。実験的詩集でデビュー、パリやローマに住んで前衛芸術運動「コブラ」の一員として文学、絵画、演劇に熱中。初期の戯曲『朝の花嫁』(1955)には、世代が違うゆえの家族間の衝突、エディプス・コンプレックス、登場人物たちの頭上に差し迫ってくる没落の運命というクラウスのその後の作品に一貫する主要テーマがすでに織り込まれている。戯曲『朝の花嫁』、心理小説『冷ややかな恋人』(1957)、戯曲『砂糖』(1958)などの初期の作品から近作の『クラウス全詩集』(1994)、長編『ベルギーの悲しみ』(1983)、『ベラドナ――美しき女』(1994)、『噂(うわさ)』(1996)に至る作品群はフランドル地方の土着性あふれる豊かな文学の世界。生後18か月から11歳まで尼僧院の寄宿学校で過ごしたクラウスには保護された環境での生活経験がなく、肉親の温かさのなかで育った者に比べると、まったく別の情緒的な発育をしたことになるが、このことは小説のメタファー暗喩(あんゆ))として役だつ。10歳の主人公が尼僧院寄宿学校から戦時(第二次世界大戦)中の思春期、そして成人して作家としてスタートする成長の記であり、戦前戦中・終戦直後の人々の人生史でもある800ページの自叙伝長編『ベルギーの悲しみ』(英・仏語に翻訳された)はベルギーの大いなる文化遺産といわれる。1960年代にアフリカの某国の叛乱(はんらん)軍を鎮圧すべく遠征した軍隊から脱走し、病む身となって生まれ故郷の汚職と陰謀の闊歩(かっぽ)する村に帰ってくる主人公への村人の反応を主題にした『噂』には、処女作『メッシエル家の人々』(1950)から一貫する土着的具体性があり、個人的な持ち味、個人的具体性を正確に確保すればするほど、国際性、世界性につながっていくとする、地方主義文学作家クラウスの真髄がここにある。オランダ文学大賞(1986)ほか七つの国家文学大賞受賞。

[近藤紀子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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