フランスの作家、批評家。ノルマンディーの名門の出身。カーン大学に学び、のちパリの国立図書館司書となるが、免官される。『メルキュール・ド・フランス』誌に載せた論文『愛国心という玩具(がんぐ)』(1891)の過激な反愛国主義的口調のためであった。そのころもう一つの不幸が彼をみまう。「結核性狼瘡(ろうそう)」という病が醜い跡を顔に残していって、いっそうの孤独幽閉の生活を強いたからである。
この二つのできごとと重なり合って始まる彼の文学活動は、象徴主義的風土と充実した生の現実、知的生活と感覚的生活、プラトニックな恋愛と官能的恋愛の間を、絶え間なく微妙に揺れ動きつつバランスを保った。有名な「シモーヌ」詩編を含む『慰戯詩集』(1912)、20世紀をみごとに先取りした作品『シクスティーヌあるいは頭脳小説』(1890)、そしてとりわけ傑作『悍婦(アマゾーヌ)への手紙』(1914)など、いずれも前記のテーマに沿っている。批評家としての彼は、「観念分離」なる用語を用いて、観念あるいはイメージの月並み部分を排除することを説いたが、実をいうと、例の反愛国主義的論文もそれの一例であった。批評の代表作は『神秘ラテン語』(1892)、『観念陶冶(とうや)』(1900)、『仮面集』(1896~98)、『文学散歩』(1904~13)、『哲学散歩』(1905~09)など。
[松崎芳隆]
『石川湧訳『文学的散歩』(1938・春秋社)』▽『堀口大学訳『グウルモン詩集』(新潮文庫)』
フランスの文芸批評家。はじめパリのビブリオテーク・ナシヨナルに勤めたが,筆禍事件を起こして1891年辞職。以後は前年に創設に参加した《メルキュール・ド・フランス》誌を主要舞台として文筆に専念。若い頃,狼瘡で醜い顔の持主となったのを恥じて,ほとんど外出せず本に埋もれて暮らした。博識で官能的な懐疑家の彼は,同時代の象徴主義運動をその高貴な反俗性ゆえに愛し,これを擁護宣揚する論陣を張った。部分的真実しか信じない醒めた眼で語られる官能的な批評やエッセーは,中世ラテン詩から秘密の好色本にまで及ぶ。評論集《仮面の書》2巻(1896,98),《文学的散歩》5巻(1904-13)ほか著書は多く,小説や詩もある。
執筆者:清水 徹
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