アメリカの理論物理学者。オーストリアからの移住者を両親としてニューヨークで生まれる。早熟児として特殊学校に通い、15歳でカレッジに入学、19歳でエール大学卒業、3年後にマサチューセッツ工科大学で理学博士、その後1年間プリンストン高等研究所に在籍し、1952年シカゴ大学の講師の職を得た。1955年カリフォルニア工科大学に移り、翌1956年教授となる。1940年代末から次々と発見されていた準安定な素粒子の相互作用に関し、新しい量子数ストレンジネスを用いた現象論的な規則(「中野‐西島‐ゲルマンの規則」)を提出した(1954)。また坂田昌一(しょういち)の提唱した素粒子の複合模型から導かれる中間子(メソン)の分類上の長所を保ちつつ、強い相互作用をする素粒子(ハドロン)の分類に有効な「八重法」(エイト・フォールド・ウェイ、八道説)(1961)を提唱、その基礎にある分数荷電をもつ基本的実体としてクォークを導入した(1964)。続いてクォークの運動を記述する基礎理論として、量子色(いろ)力学(QCD:Quantum Chromodynamics)をSU(3)ゲージ理論(SUはSynmetric Unitaryのこと)として提唱した。素粒子の分類と相互作用に関する発見により1969年ノーベル物理学賞を受賞。ほかにいくつかの賞も受けアメリカ国立科学アカデミー会員であるが、1960年代にはベトナム戦争に協力する組織に関係し、国内外の批判を受けたこともある。20世紀の終わり四半世紀の間に、量子色力学の構造の解明が進み、予測されながら未確認であったクォークも実験で確認され、6種のクォークを含む基本粒子模型が確立した。なお、ゲルマンは1984年に広領域の複雑系を研究するサンタ・フェ研究所(SFI)を各分野の学者らとともに設立、1994年には同研究所による研究成果をまとめた『クォークとジャガー』を著した。
[藤井寛治]
『M・ゲルマン他著、中村誠太郎編・監訳、谷川安孝監訳『現代物理の世界6 素粒子とはなにか』(1973・講談社)』▽『野本陽代訳『クォークとジャガー――たゆみなく進化する複雑系』(1997・草思社)』
水素化ゲルマニウムgermanium hydrideの総称。とくにGenH2n+2の組成をもつもののみを指すこともあり,またときには四水素化ゲルマニウムGeH4(モノゲルマンとも呼ばれる)のみをいうことがある。また有機ゲルマニウム化合物の総称でもある。ゲルマニウムGeは炭素Cと同様な正四面体構造をもち,メタンやエタンに似た一連の化合物である水素化ゲルマニウムを形成する。GenHn,GenH2nの組成をもつ化合物はそれぞれⅠ価およびⅡ価のゲルマニウムから成っており,分子中に二重結合はない。ゲルマニウム-マグネシウム合金に塩酸を作用させるとGenH2n+2の組成の化合物が得られる。四塩化ゲルマニウムGeCl4に水素化アルミニウムリチウムLiAlH4を作用させるとGeH4が得られる。
GeCl4+LiAlH4─→GeH4+LiCl+AlCl3
GeH4は正四面体構造でGe-H結合距離は0.149nm。無色の気体で融点-165℃,沸点-90℃。水に不溶,液体アンモニアには溶けてNH4⁺とGeH3⁻を生じ,電導性を示す。GenHnは褐色,GenH2nは黄色無定形の固体で,Ge-Ge結合をもっていると考えられている。有機ゲルマニウム化合物としてはR4Ge(Rはアルキル基またはアリール基),およびそのハロゲン化物誘導体RnGeX4-nならびに重合体R3Ge-GeR3などが知られている。
執筆者:大瀧 仁志
アメリカの理論物理学者。1948年イェール大学を卒業したのちマサチューセッツ工科大学へ進み,51年に学位を得た。その後,プリンストン高級研究所,シカゴ大学を経て,55年にカリフォルニア工科大学へ移り,56年同教授となる。宇宙線中で発見された新しい素粒子のふるまいを説明するために,1953年新しい量子数としてストレンジネスを導入(同様のことを中野董夫,西島和彦も独立に行った)。また素粒子(ハドロン)の分類に関して61年に八道説を唱え,64年には,八道説に従うハドロンの構成粒子として電子の1/3,2/3などの電荷をもつクォークの存在を提唱するなど,素粒子物理学の発展に大いに貢献した。これらの業績により69年ノーベル物理学賞を受賞。
執筆者:山崎 正勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ゲルマニウムの水素化物GenH2n+2(n = 1~5)の総称であるが,普通はGeH4をさす.n = 2以上のものはジゲルマン,トリゲルマンなどとよぶ.また,これらの水素化物のHをアルキル基などで置き換えた有機金属化合物もゲルマンと総称することがある.【Ⅰ】GeH4(76.64).塩化ゲルマニウム(Ⅳ)GeCl4を水素化アルミニウムリチウムLiAlH4または水素化ホウ素ナトリウムNaBH4で還元すると得られる.室温では無色の気体で,分子は正四面体型構造.Ge-H約1.52 Å.密度1.52 g cm-3(-142 ℃).融点-164.8 ℃,沸点-88.1 ℃.室温では空気酸化は遅い.水に不溶.340 ℃ 以上では水素とGeとに分解し,ゲルマニウム鏡生成がみられる.有機ゲルマニウム化合物の製造原料に用いられる.[CAS 7782-65-2]【Ⅱ】GenH2n+2(n = 2~5)の化合物が知られている.Ge-Mg合金の加水分解生成物や,GeH4中での放電による生成物から分離精製すると得られる.Ge2H6(151.27)は融点-109 ℃,沸点29 ℃.密度1.98 g cm-3(-109 ℃).Ge3H8(225.89)は融点-105.6 ℃,沸点110.5 ℃.密度2.20 g cm-3(-105 ℃).Ge4H10(300.52)は沸点176.9 ℃.Ge5H12(375.15)は沸点234 ℃.【Ⅲ】R4Ge.テトラアルキルゲルマンは,GeCl4にアルキルグリニャール試薬か,ジアルキル亜鉛を作用させると得られる.(CH3)4Geは,室温では無色の液体.融点-88 ℃,沸点43 ℃.[別用語参照]テトラフェニルゲルマン
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…陽子と中性子およびそれらの間に交換されるπ中間子などは素粒子と呼ばれ,従来はこれ以上分割することのできない究極の粒子と考えられてきた。しかし,新しい素粒子が次々と発見されてその数が増えるとともに,M.ゲル・マン,G.ツワイクはこれらの粒子も複合体であり,さらに小さいクォークと呼ばれる超素粒子で構成されているとする説(クォーク説)を提唱した。クォークそのものが見つかったわけではないが(理由は後述),加速器を用いての実験などの結果は,このクォーク説を裏づけており,現在,クォークの存在は確実なものとされている。…
…その後このような粒子としてK中間子,シグマ粒子(Σ)などの存在が明らかとなったが,これらの粒子がきわめて短時間につくられるのに,いったんできてしまうと平均寿命は予期されるものより大幅に長いことの説明はできず,このため,これらの新粒子は奇妙な粒子strange particleと総称された。53年西島和彦およびM.ゲル・マンらは,素粒子はアイソスピンとバリオン数のほかにもう一つの量子数を帯びていて,その数の和が強い相互作用や電磁相互作用では保存するという理論を提唱,ゲル・マンはこの新しい量子数をストレンジネスと呼んだ。ストレンジネスが保存される反応が一度に起こるのが強い相互作用で,保存されない反応は弱い相互作用で長時間かかって崩壊すると考えると,つくられるときはきわめて短い間につくられるのに,いったんできてしまうと平均寿命が長いという奇妙な性質をうまく説明できる。…
…二つのV粒子が同時に見られる確率はそれらが独立ならば極端に小さいはずだから,ひんぱんに起こるということは,一つの反応でそれらが同時につくられたとみるべきである。これらを説明するために,53年,西島和彦と中野董夫,M.ゲル・マンはそれぞれ独立に,すべてのハドロンは電荷とバリオン数のほかに新しい量子数としてストレンジネス(奇妙さ)strangeness(ゲル・マンの命名)をもち,このストレンジネスの和が強い相互作用や電磁相互作用では保存されるという考え(中野=西島=ゲル・マンの法則)を提唱した。ここでストレンジネスSは,粒子の電荷をQ,アイソスピンの第3成分をI3,バリオン数をB,電気素量をeとして,Q=e(I3+B/2+S/2)で定義される。…
※「ゲルマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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