素粒子物理学(読み)ソリュウシブツリガク(英語表記)elementary particle physics

デジタル大辞泉 「素粒子物理学」の意味・読み・例文・類語

そりゅうし‐ぶつりがく〔ソリフシ‐〕【素粒子物理学】

素粒子の構造・性質・相互作用などを研究し、自然界の最も基本的な物理法則を探究する物理学の一分野。理論的には素粒子論といい、特殊相対性理論量子論を基礎として場の理論量子電磁力学からゲージ理論大統一理論などを展開する。実験的には加速器を使って加速・高エネルギー化した粒子を必要とすることから、高エネルギー物理学ともいう。

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精選版 日本国語大辞典 「素粒子物理学」の意味・読み・例文・類語

そりゅうし‐ぶつりがくソリフシ‥【素粒子物理学】

  1. 〘 名詞 〙 素粒子の構造・性質・相互作用などを研究し、自然界の最も基本的な物理法則を探究する物理学の一分野。理論的には素粒子論といい、特殊相対性理論と量子論を基礎として場の理論・量子電磁力学からゲージ理論・大統一理論などを展開する。実験的には加速器を使って加速・高エネルギー化した粒子を必要とすることから、高エネルギー物理学ともいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「素粒子物理学」の意味・わかりやすい解説

素粒子物理学 (そりゅうしぶつりがく)
elementary particle physics

素粒子の性質やその構造,素粒子間の相互作用などを研究する学問。高いエネルギー領域での研究であることから高エネルギー物理学ともいい,またとくに素粒子物理学の理論部分を素粒子論と呼ぶこともある。

 素粒子物理学といってもその内容は時とともに変遷してきた。それは素粒子自身の内容が変わってきたことと軌を一にする。しかし,いずれの時代でももっとも究極的な,あるいは基本的な物質的存在を科学的に研究する学問が存在し続けてきたわけであり,ほぼ1950年代以降そのような物理学の一分野を素粒子物理学と呼ぶようになったと思われる。それは原子物理学原子核物理学に引き続いて成立してきた学問であり,原子核を構成している陽子,中性子,さらにまた電子などの粒子がこれ以上分けられないのではないかという予想もあって素粒子と名付けられたものであろう。しかしながら,今日では陽子,中性子などのいわゆるハドロン属の粒子はさらに基本的な粒子であるクォークからできていると考えられている。したがって今日,素粒子物理学といえば,クォーク,レプトンおよびそれらに結合するゲージ粒子を対象とする学問といえるかもしれないが,クォークは単独で存在し得ないという事情もあって,素粒子物理学の対象はきわめて複雑で多様である。そこで,ここでは歴史的な発展を簡単にたどることでその内容の一端にふれることを試みよう。

いわゆる素粒子物理学は1932年のJ.チャドウィックによる中性子の発見や,35年の湯川秀樹による中間子の存在予言,それに続く宇宙線中での中間子の発見などを契機として出発した。原子核を構成する陽子や中性子,その間の力(核力)を媒介する中間子,さらにこれらのまわりを回って原子を構成する電子および電磁力を媒介する光が素粒子のすべてで,これらは不可分のものであろうと思われた。理論的には電子の異常磁気モーメントやラム・シフトの説明に完全な成功を収めた量子電磁力学の発展があり,中間子を媒介とする強い相互作用もそれに類似の理論で記述されるのではないかという期待があった。しかし,実際の事態はそれほど単純ではなかった。強い相互作用ではその強さが電磁力に比べてきわめて大きいために,いわゆる摂動論の方法が使えず,場の理論は行詰りを見せた。またβ崩壊を記述する弱い相互作用に関するフェルミの理論にしても摂動の最低次以上の計算はできず,電磁相互作用のときに使えたくりこみの方法はここでは無力であることが判明した。50年代になると弱い相互作用が空間反転を破っていること,すなわちパリティが保存されないことが明らかとなり,それまでの時空の対称性に関する独断に一撃を与えた。

1950年代後半には宇宙線中でK中間子やΛ粒子など,原子の中には存在しないさまざまな素粒子が続々と発見され,素粒子の世界は単純ではないことが判明した。またπ中間子,核子系での共鳴状態の発見は,場の理論の適用をますます困難にするとともに,さらに多くの共鳴状態の存在を予想させた。このような共鳴状態を人工的に作り出すことは,例えばサイクロトロンのような加速器によって初めて可能となった。60年代以降,素粒子物理学はほとんどの場合,宇宙線に頼ることをやめ,高エネルギーの加速器技術およびそれに伴う粒子測定技術の進歩とともに発展してきた。60年代初めにはカリフォルニア大学バークリー校のシンクロサイクロトロン(6.2GeV)や,ブルックヘブン国立研究所のシンクロサイクロトロン(33GeV)によって,それまで宇宙線中でのみ発見されていたK中間子やΛ粒子,Σ粒子,Ξ粒子,さらにそれらの励起状態が続々と発見された。

 このような新粒子の発見は素粒子の分類に関する研究を促し,いろいろな素粒子模型が提案されたが,群SU(3)のいろいろな表現を用いて分類する方法がもっともうまくいくことがわかった。しかも,その表現としては一次元,八次元および十次元だけが現れることも判明した。このことはより基本的な粒子としてのクォークの存在(群SU(3)の基本表現である三次元に属する)を示唆した。しかし,クォークをより基本的な粒子として素粒子物理学を構成することは70年代後半に至るまで待たねばならなかった。

1960年代前半には場の理論に対する信頼がきわめて薄れ,S行列理論のように,確率保存や因果律に基づく散乱振幅の解析性といったきわめて一般的な原理だけで現象を記述しようとする試みが盛んになされた。しかし,60年代後半に入るとカレント代数の方法が考案され,従来の場の理論は必ずしも無力ではないことが明らかとなった。実験的にもブルックヘブンやバークリーを中心としてハドロンの励起状態やその散乱振幅に関する大量のデータが蓄積され,S行列理論の一つの発展としてデュアル・レゾナンス・モデルのようなものが成立した。そして,その解釈として南部陽一郎らによって考えられたデュアル・ストリング・モデルは,ハドロンの構造に関してきわめて重要な暗示を含んでいた。つまりハドロンの中には何かひものような構造があるということである。

 弱い相互作用の分野でもCP不変性(空間および粒子-反粒子の反転を同時に行う変換に対しては弱い相互作用が不変であること)の破れが発見されたり,νe,νμの2種類の中性微子が発見されたりしてしだいにその構造が明らかにされてきたが,中性カレントの発見に至ってついに電磁相互作用と弱い相互作用の統一を目ざすワインバーグ=サラムの理論が本格的にとり上げられることとなった。これに関しては74年のチャーム粒子の発見が非常に大きな役割を果たしている。つまりフレーバーを変えるような中性カレントの出現を妨げるGIM機構の正当性がこの発見で証拠だてられたのである。チャーム粒子の発見に関しては衝突型加速器の発明が非常に重要な貢献を果たした。従来は,円形,または線形の加速器からビームをとり出してそれをターゲットに当て,その際に起こる現象を調べていたのであるが,衝突型加速器では,例えば電子,陽電子を一つの加速管の中で逆方向に回し,何ヵ所かでそれらを衝突させるしくみであって,このようにしてきわめて高いエネルギーが得られるのである。

 弱い相互作用に関する理解が深まる一方,強い相互作用に関しても,ある意味ではその成立がデュアル・ストリング・モデルやカレント代数とは無縁ではない非アーベル群に基づくゲージ理論の確かさがしだいに明らかにされていった。初めは短距離での漸近自由性に基づく摂動論が,例えば電子-陽子散乱や中性微子-陽子散乱でテストされた。最近では長距離でのふるまいが,空間を格子状に分割し,計算機を最大限に駆使してモンテカルロ計算を行うことによって明らかにされつつある。また,弱い相互作用,強い相互作用,電磁相互作用の三つの相互作用を統一する,いわゆる大統一理論も重要な研究対象になっている。1970年代後半からは素粒子物理学はそれまでとはきわめて異なる局面を迎えているといえるのである。
素粒子
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「素粒子物理学」の意味・わかりやすい解説

素粒子物理学
そりゅうしぶつりがく
elementary particle physics

素粒子の性質や構造,素粒子間の相互作用を研究し,物理学の最も基本的な法則を明らかにすることを目指す分野。素粒子の実験的研究には非常に高いエネルギーの粒子が必要なので,その実験的部分を特に高エネルギー物理学と呼ぶ。物質の根源の探求は 19世紀末の電子の発見以来,半世紀の間に光子陽子中性子陽電子μ粒子π中間子などの素粒子の発見をもたらしたが,1950年代以降,高エネルギー加速器が次々と建設され,新しい素粒子の発見がこれに続いた。今日では素粒子はクォークレプトン,そしてゲージボソンの三つに分類されている。一方,これら素粒子の相互作用は強い相互作用電磁相互作用弱い相互作用重力相互作用に大別される。1970年代に入り,これらの相互作用はすべてゲージ不変性の原理に従う繰り込み可能な量子論で記述されることが明らかになった。特に電磁相互作用と弱い相互作用を統一して記述する電弱統一理論が成功を収め,強い相互作用の量子色力学とともに素粒子の標準理論となった。これらの相互作用をさらに統一しようとする大統一理論も提唱されている。その大統一理論によるとクォークはレプトンに転換することが可能で,このため陽子はある寿命で陽電子へ崩壊する。この陽子崩壊の予言を検証する努力も続けられている。また,重力相互作用をも含む究極の統一理論として超弦理論も研究の対象となり精力的な研究が行なわれている。

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百科事典マイペディア 「素粒子物理学」の意味・わかりやすい解説

素粒子物理学【そりゅうしぶつりがく】

素粒子の性質やその構造,素粒子間の相互作用などを研究する学問。高いエネルギー領域での研究であることから高エネルギー物理学ともいい,またとくに素粒子物理学の理論部分を素粒子論とよぶこともある。
→関連項目素粒子原子核研究所

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知恵蔵 「素粒子物理学」の解説

素粒子物理学

物質の究極の素(もと)に迫る物理学。原子核を形づくる粒子や基本粒子などの顔ぶれや振る舞いを探る。古代ギリシャの原子論の流れをくむ純粋科学の主流の1つ。宇宙論の視点でみれば、宇宙誕生の大爆発(ビッグバン)直後の高エネルギー世界を知ることになるので、高エネルギー物理学と呼ばれることも多い。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

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