ゲージ理論(読み)ゲージリロン(その他表記)gauge theory

デジタル大辞泉 「ゲージ理論」の意味・読み・例文・類語

ゲージ‐りろん【ゲージ理論】

素粒子相互作用ゲージ不変性に基づいて統一的に記述しようとする理論量子電磁力学素粒子の基礎理論となっており、素粒子間に働く力を媒介するゲージ場と、これに対応するゲージ粒子存在が導かれる。量子電磁力学の一般相対性理論ゲージ理論である。

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精選版 日本国語大辞典 「ゲージ理論」の意味・読み・例文・類語

ゲージ‐りろん【ゲージ理論】

  1. 〘 名詞 〙 素粒子の相互作用をゲージ不変性に基づいて統一的に記述しようとする理論。量子電磁力学の素粒子の基礎理論となっており、素粒子間に働く力を媒介するゲージ場と、これに対応するゲージ粒子の存在が導かれる。量子電磁力学の一般相対性理論もゲージ理論である。

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改訂新版 世界大百科事典 「ゲージ理論」の意味・わかりやすい解説

ゲージ理論 (ゲージりろん)
gauge theory

電磁気学の基本方程式であるマクスウェルの方程式をベクトルポテンシャルで書き直すことは非常に便利なことである。しかし,決まった電場,磁場に対してベクトルポテンシャルは一意的には決まらない。これをゲージの不定性という。場の理論で,例えば電子と光の相互作用を記述するためにはベクトルポテンシャルを用いることがどうしても必要であり,したがってゲージの不定性は本質的な意味をもつといえる。電場や磁場のような観測可能な量を不変に保ちながらベクトルポテンシャルを変える変換をゲージ変換といい,ゲージの不定性はゲージ変換によって完全に記述される。電場や磁場だけでなく,エネルギーや電流などすべての観測可能量はゲージ変換に関して不変であることが要請され,一般にこのような意味でゲージ変換に関して不変な理論をゲージ理論という。電磁気学は代表的なゲージ理論である。

 電磁理論がアーベル群に基礎を置いたゲージ理論であるのに対し,1954年にC.N.ヤンとR.L.ミルズはこれを拡張して非アーベル群に基づくゲージ理論を考案した。アーベル群に基づくゲージ理論としての電磁気学では,ゲージ場としての光の場は電荷をもっていないが,非アーベル群に基づくゲージ理論ではゲージ場自身が電荷に対応する物理量をもち,ゲージ場自身の間の自己相互作用が生ずる。このことが非アーベル群に基づくゲージ理論のきわだった特性になっている。具体的にアーベル群に基づくゲージ理論と非アーベル群に基づくゲージ理論の物理的な相違の典型的なものとして,前者ではエネルギーが小さいところで相互作用が消え去るように見えるのに反し,後者ではエネルギーが高いところで相互作用がなくなるように見えることがあげられる。また後者では,低エネルギー領域で,いいかえれば距離が離れたところで非常に大きな力が働くと考えられ,この大きな力がクォークを素粒子の中に閉じ込めていると推測される。

 強い相互作用も,また弱い相互作用電磁相互作用を統一する理論も非アーベル群に基づくゲージ理論で記述されると思われているが,両者には一つ重要な相違点がある。前者ではゲージ不変性は決して破れることはないと考えられるが,後者ではそれが少なくとも見かけ上は破れているように見えることである。このために相互作用を担う粒子としてのゲージ粒子のうち,弱い相互作用に関連するWやZと呼ばれる粒子が有限の質量をもってしまう。これに対し,ゲージ粒子の一種で電磁相互作用に関連する光は質量をもたず,一方,強い相互作用のゲージ粒子であるグルオンは質量をもたない。また重力相互作用のゲージ粒子であるグラビトンも質量がないと考えられている。

 このように,強い相互作用も,また弱い相互作用と電磁相互作用を統一する理論もゲージ理論であり,さらにアインシュタインの重力理論はそれ自身でゲージ理論であることから,現在では,すべての相互作用はゲージ理論で統一的に理解されうるのではないかと考えられている。
相互作用
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲージ理論」の意味・わかりやすい解説

ゲージ理論
げーじりろん
gauge theory

局所的な変換に対して不変な場の理論をいう。局所的な変換とは場所ごとに変換の角度が自由に選ばれた変換をいう。ゲージgaugeという学術語はワイルにより導入され、電磁相互作用をゲージ理論として認識した。この考えをヤン(楊振寧)とミルズRobert L. Mills(1927―1999)は、任意の内部自由度(時空と独立な自由度)に対する対称性に拡張した。このため非可換群に基づいたゲージ理論はヤン‐ミルズ理論ともよばれる。ヤンとミルズの理論発表の直後に内山龍雄は、重力の理論である一般相対論も一種のゲージ理論であることを示した。今日知られている素粒子の相互作用の理論、すなわち電磁相互作用と弱い相互作用の統一理論であるワインバーグサラムの理論(WS理論)も、クォークの力学である量子色(いろ)力学(QCD)もすべてゲージ理論である。WS理論とQCDの大統一ゲージ理論が大きな関心をよんでいる。ゲージ理論は数学では接続の幾何学、すなわちファイバー・バンドルの理論に対応する。

[益川敏英]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲージ理論」の意味・わかりやすい解説

ゲージ理論
ゲージりろん
gauge theory

ゲージ対称性をもつ場の理論をさす。すなわち四次元時空の各点 (座標 xyzt) において定義された場の量ψ (xyzt) を測るゲージを各点ごとに独立に変えても,エネルギーなどすべての物理量が不変であるような理論である。数学的にはψが群G (ゲージ群と呼ぶ) のある既約表現として局所的に変換したとき,場の満たす運動方程式が共変的に変換する。このためゲージ変換で結びつく解は物理的には同一内容をさす (ゲージ同値) とみなされる。この不変性を保証するため,隣り合った2点間のゲージを関係づけるゲージボソンと呼ばれるベクトル場が存在する。一例として,電子と電磁場の理論はG=U (1) (位相変換) のゲージ理論で,電子場がψ,光子がゲージボソンとなる。最近の素粒子理論では,基本的相互作用を記述する理論はすべてゲージ理論なので (ゲージ一元論) ,その重要性が注目されている。すなわち,電磁相互作用弱い相互作用を統一的に記述するワインバーグ=サラムの理論はG=SU (2) ×U (1) のゲージ理論であり,強い相互作用を記述する量子色力学 QCDはG=SU (3) のゲージ理論である。また重力相互作用を記述する一般相対性理論はGを局所ローレンツ変換群とするゲージ理論である。

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百科事典マイペディア 「ゲージ理論」の意味・わかりやすい解説

ゲージ理論【ゲージりろん】

の理論の一形式。現在,素粒子の相互作用に関する最も基本的な法則と考えられている。ある種の対称性および保存則を導く手続きが,時空の各点で独立に行われるという要請に基づくもので,力を媒介する場(ゲージ場)の存在が自然に出てくる。ゲージ理論に基づいて導入されるゲージ場の粒子がゲージ粒子で,弱い相互作用のWやZ(ウィークボソン),電磁相互作用の光子(フォトン),強い相互作用のグルーオン,重力相互作用のグラビトンがある。強い相互作用,弱い相互作用と電磁相互作用を統一する電弱統一理論,アインシュタインの重力理論はゲージ理論であることから,現在ではすべての相互作用はゲージ理論で統一的に理解されうるのではないかと考えられている。→素粒子論

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