改訂新版 世界大百科事典 「ゲンス」の意味・わかりやすい解説
ゲンス
gens
古代ローマ最古期の氏族集団。各氏族の成員は共通の名前や祭礼により結びついていたが,必ずしも血縁集団であったわけではない。氏族は本来の成員だけでなく庇護民によっても構成され,氏族内の各家族は相互に対等な家父長の絶対的宗主権下にあった。氏族の所属者の保護と利益擁護のためには自力救済の手段がとられたが,国家組織が整い血讐による秩序が克服されると,氏族は貴族身分として残存するにすぎなくなった。
執筆者:本村 凌二
ギリシア
ローマ人のゲンスに当たるギリシア語は同語根のゲノスgenosである。これは共通の祖先をもつと観念された複数の家族(オイコス)の集合体である。アリストテレスの《アテナイ人の国制》の散逸した部分の断片によれば,アッティカには古くから四つの部族(フュレー)があり,各部族は三つの胞族または兄弟団(フラトラまたはフラトリア)から成り,したがって全部で12の胞族があり,各胞族は30の氏族から成り,各氏族は30人から成っていたとされている。30人とは30の家(オイコス)という意味と解せられる。4部族は四季にならったものであり,12胞族は1年12ヵ月にならい,30氏族は1ヵ月30日にならったものと注釈されているように,上記の編成には人為的な色彩が濃厚である。氏族は共通の祖先から出たと信じられる男系の子孫から成り,祖先以来の祭祀を共同で行い,共同の墓地や共有財産をもち,首長や共有財産管理人を選んだ。このような氏族制度は,ポリスの成立以後,貴族層の支配組織としてつくられたものであったと推定されるが,胞族には非常に早くから全人民の組織であったことを示唆する性格があり,ゲノスもまたポリスの成立以前からの全人民的な血縁的単位集団であったと推測され,それがもとになってポリス成立後に上記のような編成がつくりだされたのであろう。ミュケナイ文書には氏族制を示唆するものは皆無である。宗教的集団としてのオルゲオネスorgeōnesの存在を示唆するその古語worokijoneが見えるが,これは確かではない。
→氏族
執筆者:太田 秀通
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報