日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリブス」の意味・わかりやすい解説
トリブス
とりぶす
tribus ラテン語
古代ローマの国民の下部区分。王政時代には、国民はティティエス、ラムネス、ルケレスの三トリブスに分かれたが、このトリブスは元来は血縁的な種族集団であったと考えられる。これに対して、セルウィウス・トゥリウス王が始めたと伝えられる後のトリブスは、地域的原理による区分で、最古の区分は、ローマ市域の四トリブス、周辺農村部の貴族(パトリキ)氏族の名をもった16区分であったと推定されている。その後、イタリアにおいてローマ市民の植民市建設や原住民へのローマ市民権付与が進むと新しい領域に新トリブスが設置され、紀元前241年には総数35になった。しかし、この後、トリブスが新たに設置されることはなかった。ローマ市民はかならずいずれかのトリブス(区)民として登録され、参政権のほか、戸口調査、課税、徴兵など政治的権利義務はすべてトリブスを介して遂行された。たとえば、ローマの民会の一つ、トリブス民会での採決は一区が二票(老人組一票、壮年組一票)をもつ仕方で投票が行われ、ケントゥリア民会でも前241年以後同じ方法が導入された。しかし各トリブスの区民数は等しくなく、中心市の四トリブスはとくに貧民、解放奴隷を多く含む巨大トリブスであったから、ここへの所属替えはしばしば罰として行われた。前241年以後、新市民は既存の35トリブスのいずれかに登録されたから、新市民の新登録は政治的力関係に影響を与え、しばしば政争の焦点となった。
[弓削 達]