日本大百科全書(ニッポニカ) 「コウイカ」の意味・わかりやすい解説
コウイカ
こういか / 甲烏賊
cuttlefish
[学] Sepia esculenta
軟体動物門頭足綱コウイカ科のイカ。同科中でもっとも普通にみられる1種。本州中部から九州および中国大陸の沿岸に産し、東南アジアを経てオーストラリア北岸にまで及ぶ。外套(がいとう)長17センチメートル、外套幅9センチメートルぐらいに達する。外套膜は背腹にやや扁圧(へんあつ)されたドーム形。左右両側には全縁にわたってひれがある。生時は雄の背面に暗褐色で波状の横縞(よこじま)が顕著であるが、雌には定まった斑紋(はんもん)はない。腹面は雌雄とも蒼白(そうはく)色。腕の長さはほぼ等しく8センチメートルぐらいある。触腕は、普段は第3腕と第4腕の間にあるポケットに収まっているが、伸ばすと20センチメートルぐらいに達する。背面の外套に包まれて石灰質の甲(貝殻)があり、後端が鋭い針状突起となって突出しているので、市場ではハリイカの名がある。肉は厚くて美味。学名のセピアSepiaは墨汁の色に由来し、かつて地中海地方では、この類の墨汁から黒い顔料を採集した。市場ではマイカあるいはスミイカの俗称もある。初夏になると内湾に集まって、海藻や沈木などに直径1センチメートルぐらいのブドウの実状をした卵を、1個ずつ密着させて産み付ける。
なお、広い意味では、石灰質の甲(貝殻)をもつコウイカ科に属するイカ類をコウイカということもある。日本でコウイカに次いで多く市場でみられるものはカミナリイカ(雷烏賊)S. lycidasで、主として東シナ海方面で漁獲され、外套長21センチメートル、幅10センチメートルに達する大形種である。雄は背側に多数の暗褐色の横縞があるほか、楕円(だえん)形の眼状紋があるところからモンゴウイカ(紋甲烏賊)とよばれている。近年需要の増大とともに大西洋のヨーロッパコウイカS. officinalisやインド洋のトラフコウイカS. pharaonisなども市場でみられ、これら大形種にもモンゴウイカの市場名が流用されている。また市場では、海外種でも小・中形種はコウイカと総称される。コウイカ類は肉が厚く柔らかいので、生食するほか、てんぷら、焼き物、煮物などの材料にされる。外套膜だけにして皮をむいたものや、腕だけにした冷凍品なども出回っている。
[奥谷喬司]