改訂新版 世界大百科事典 「コブシ」の意味・わかりやすい解説
コブシ
kobus magnolia
Magnolia praecocissima Koidz.
モクレン科の高さ20mに達する落葉高木。春先,他の木々が裸のままの頃,コブシの木が無数の白い花で飾られているのは,山でも人里でもよく目だつ。
花は葉が展開する前に咲き,直径約10cm。花のすぐ下に1枚の若葉を伴うことが多い。萼,花弁は白色だが,基部は桜色か薄緑色になることが多い。萼は披針形で長さは花弁の1/3。葉は倒卵形,長さ5~20cmで,しわ質。近縁のタムシバM.salicifolia(Sieb.et Zucc.)Maxim.はよく混同されるが,萼は花弁の1/2の長さで,花は純白,枝はまっすぐに斜上すること等からコブシと容易に区別できる。
北海道,本州,九州,韓国済州島に分布し,四国には分布しない。北海道および関東平野に多い。コブシの花が咲くのを目安に農作業を始める地方が多く,田打ち桜と呼ばれたりする。雪国では,山を見ては,〈コブシが咲いた〉〈いや,あれは雪だ〉と言いながら春を待つ。しかし,それはタムシバであることの方が多い。北海道のものは,花弁基部が濃桜色で目立ち,キタコブシとして区別されることもある。コブシは近縁のシデコブシM.tomentosa Thunb.と共に世界的に庭園花木として用いられるが,日本ではむしろ人里の生活に密着した半栽培樹と言えよう。その他,コブシはモクレン属植物の接木の台木に使われ,また薬用に供される。材は軽軟材で同属のホオノキと共によく使われる。辛夷や木筆等の漢名がよく使われるが,誤用である。
執筆者:植田 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報