サカキ(英語表記)Cleyera japonica Thunb.

改訂新版 世界大百科事典 「サカキ」の意味・わかりやすい解説

サカキ
Cleyera japonica Thunb.

枝を神事に用いるので,日本では〈榊〉と書き,神社の境内によく植えられるツバキ科の常緑小高木。暖帯の樹林に普通にある。樹高12m,胸高直径30cmにも達する。樹皮には円い小さい皮目が多い。若枝は緑色,無毛で,冬芽は若い葉身が内に巻いていて裸で鎌形。葉は長楕円形,濃緑色で光沢をもち,縁に鋸歯がない。花は6~7月,葉腋(ようえき)に1~4個つき,白色であるが後に帯黄色となる。おしべは多数あって花弁の基部につく。めしべの葯の表面には白色の下向きの毛がある。果実は球形で,11~12月に黒色に熟する。サカキは常緑であり,栄樹から名がついたという。

 日本,済州島,台湾,中国の亜熱帯暖温帯に広く分布する。庭園樹,生垣にされ,また,盆栽,切枝に利用される。江戸末期には葉に斑(ふ)の入った品種もでている。
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〈榊〉は〈賢木〉とも書き,古くは神事に用いられる常緑樹の総称で,特定の樹種とは限らず,シキミなども含まれていた。その中で,サカキは色や形が美しく,神事にふさわしいものとして,神社の境内などによく植えられた。しかし,今でもナンテンをサカキという地方がみられる。《古事記》や《万葉集》では〈賢木〉と表記しており,〈榊〉の字は国字である。サカキは神の依代(よりしろ)とされたり,玉串として幣をつけて神に奉納したり,神域を表示したり,その境にさしてしめ縄を張ったりして神事に広く使われるため,カミシバとも称される。伊勢地方では門松に用いられる。そのほか,サカキは家の神棚はじめ,厠神(かわやがみ)やかまどにも供えられ,奥能登のアエノコトでは田の神の依代ともされた。古く記紀には,天の岩屋戸で榊に玉や鏡をかけて御幣(みてぐら)としたことが記されており,平安時代の神楽歌でも採物(とりもの)の一つとして歌われた。中世には春日神社の衆徒が大サカキを奉じて入洛し,朝廷に嗷訴(ごうそ)したという。ハナは元来,神霊が示現する先端を意味し,草木の花よりも常緑樹の枝の方が古い形と考えられている。サカキはいわば神霊を招いたり奉安するハナであり,神木であったから,これをむやみに燃したり山で切ることは禁じられ,もし犯せばけがをしたり災難が起こるといわれた。またサカキを民家に植えると位負けするともいい,便所などの不浄な所に植えたり,船材に使うことも忌まれた。一方で,サカキを布団に敷いて寝ると吉夢を見るといい,また夜道を通るときにサカキをもって神の子と唱えれば,狐狸(こり)などの魔物よけになるという。奥三河の花祭の役鬼の一つに榊鬼がおり,この鬼はサカキを腰にさしたり手に持って登場し,その反閉(へんばい)は最も神聖なものとされた。そのほか,民間療法でも夜泣きやものもらいを治すのにサカキが使われた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サカキ」の意味・わかりやすい解説

サカキ
さかき / 栄樹

[学] Cleyera japonica Thunb.

ツバキ科(APG分類:サカキ科)の常緑高木。若枝は緑色であるが、次の年からは褐色となる。葉は全縁で細い楕円(だえん)形、長さ7~12センチメートル、枝の左右に平らにつき、2列互生である。夏、柄(え)のついた花を1~4個、腋生(えきせい)する。萼片(がくへん)、花弁ともに5枚、雄しべは多数で花弁の基部に合着する。子房は2~3室、中軸胎座に多くの胚珠(はいしゅ)をつける。秋、球形で黒紫色の液果を結ぶ。暖帯林中に生え、関東地方以西の本州から九州、および中国に広く分布する。

 神社や庭によく植える。栄樹と書くのは年中葉が緑色であるためで、榊の字は神道(しんとう)の神事に用いることによる。材は器具、傘の柄、箸(はし)などや建材とする。

 サカキのない東北、北海道では、よく似たヒサカキEurya japonica Thunb.を神事に代用する。ヒサカキは樹皮は灰色、葉は鋸歯(きょし)があり、雌雄異株で花は小さい。また、モクレン科のオガタマノキMagnolia compressa Maxim.(Michelia compressa Sarg.)は葉がサカキとよく似ており、同様に神事に用いる。

[杉山明子 2021年3月22日]

 APG分類ではサカキ属、ヒサカキ属、モッコク属などはサカキ科Pentaphylacaceaeとしてツバキ科から独立した。科名の和名はサカキ科またはモッコク科、ペンタフィラクス科とすることもある。アジア、アフリカ、アメリカの熱帯から亜熱帯を中心に12属350種ほどが知られる。日本には4属がみられる。

[編集部 2021年3月22日]

民俗

サカキを神木としている神社もあり、橘忠兼(たちばなのただかね)撰(せん)『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』には、京都の吉田神社はこれを神体としているとある。また平安から室町時代にかけて、興福寺の僧徒らが朝廷に強訴(ごうそ)するときは、春日(かすが)神社の神人(じにん)とともにサカキを捧(ささ)げて京都に入ったという。「榊葉の香をかぐはしみ求(と)め来(く)れば八十氏人(やそうじびと)ぞ円居せりける」(神楽歌(かぐらうた))というが、現在みられる木には香りはない。またサカキは、魔物除(よ)けや病気治療に効果があるという俗信がある。

[大藤時彦 2021年3月22日]


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百科事典マイペディア 「サカキ」の意味・わかりやすい解説

サカキ

本州(関東以西)〜沖縄,東アジアに分布し,山地林中にはえるツバキ科の常緑小高木。葉は厚く長楕円形で長さ8cm内外,夏,葉腋に径約1cmの黄白色5弁花を1〜3個つける。果実は球形で秋,黒熟。庭木や生垣にする。神道では〈榊〉〈賢木〉などの字で表し,木綿(ゆう)・紙垂(しで)をつけて神にささげる玉串(たまぐし)とし,また五色の幣帛(へいはく)等をつけ真榊(まさかき)と称して神前の装飾とする。ヒサカキも同様に用いる。古くはシキミなども含めて〈さかき〉といったらしい。
→関連項目玉串神籬

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世界大百科事典(旧版)内のサカキの言及

【祭具】より

…祭祀(さいし)に用いられる器具の総称。祭具は宗教儀礼と有機的に結合している。すなわち祭場の荘厳(しようごん)に用いられたり,神的存在と人間主体とが交わる通路づけの役割を果たしたり,また祭具自体が宗教的象徴物となるなど,さまざまな機能をになって,地上に聖なる儀礼的空間を現出させる。概して祭具は,民俗宗教においては,慣習的にその伝承様式を伝え,成立宗教においては教団の成立過程で定型化され,教義的意味づけを付与されて儀礼的行為のなかに位置づけられている。…

【採物】より

…神楽などで舞人が手にして舞う神聖な物。本来は神の降臨する依代(よりしろ)とされ,それを採って舞うことは清めの意味があり,同時に舞人が神懸りする手だてともなる。天の岩戸における天鈿女(あめのうずめ)命の神懸りも,笹葉を手草(たぐさ)に結ったとか(《古事記》),茅(ち)を巻いた矛を手に俳優(わざおぎ)した(《日本書紀》)とあり,採物を用いていたことが知られるが,採物の名称は平安時代の御神楽(みかぐら)歌に見えるのが早い。…

【花】より

…松はその枝に神の示現を〈待つ〉木といい,〈さかき〉は〈栄木〉で常緑の姿をたたえた名である。いまはサカキ(榊)を〈さかき〉とするが,古くはシキミも〈さかき〉と呼ばれた。これは葉に香気があるため香柴,香の花,花柴,花枝,花榊などと書き,神事にも仏事にも使われた。…

※「サカキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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