改訂新版 世界大百科事典 「シタン」の意味・わかりやすい解説
シタン (紫檀)
rosewood
マメ科ツルサイカチ(ヒルギカズラ)属Dalbergiaの木材で,コクタンやタガヤサンとともに古くから唐木(からき)の代表として建築装飾材(床柱,床がまちなど),家具,細工物,彫刻,楽器(三味線の棹など)に賞用されてきた。いくつかの種が紫檀の名で利用されるが,主要種であるD.cochinchinensis Pierre(英名Siam rosewood)はタイ~インドシナに分布する高木で,高さ25m,直径1~1.5mになる。心材は濃暗紫褐色~紫黒色で緻密(ちみつ),比重1をこえ,きわめて重硬であるがそのわりには工作しやすく,加工後は狂わない。インドおよびジャワのD.latifolia Roxb.(英名Indian rosewood)も材質は同様だが,全体に紫色が強く,黒色の縞をもつ。近年は本種が多いと思われる。世界的にみるとツルサイカチ属にはこのほかにも美麗な心材をもつものがあり,一般にローズウッドrosewoodの名で知られるが,それは材にかすかながらバラの花に似た芳香を有するためである。中でもブラジル南東部のD.nigra Fr.Allem.(英名Brazilian rosewood,palisander)は黒色と暗橙褐色が縞状または斑状にまざった美しい心材をもち,最高級の装飾材として定評がある。建築の内壁や家具に用いられるが,今では蓄積が減り,厳しく伐採制限がされている。また中央アメリカ~南アメリカ北部のD.retusa Hemsl.(英名cocobolo,Nicaragua rosewood)の心材は食卓用のナイフ,スプーンの柄に賞用される。東アフリカのD.melanoxylon Guill. et Perr.(英名African blackwood,Senegal ebony)は心材が真黒色で,コクタン(英名ebony)に似ており,クラリネット材としての特用がある。ほかにツルサイカチ属には20~30種の銘木級の用材を産するものがある。しかし熱帯を中心に全部で150~200種あるこの属の大半はつる性である。なおシタンにPterocarpusの属名があてられていることがあるが,誤りである。
なお唐木類の一つで三味線の棹などに賞用される紅木(こうき)または紅木紫檀はインドのマメ科のPterocarpus santalinus L.の木材で,広い意味の紫檀に含められることがある。
執筆者:緒方 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報