古代ギリシアの抒情詩人。ケオス島に生まれ,僭主時代のアテナイや豪族スコパス一門の支配下のテッサリアの宮廷詩人として活躍し,ペルシア戦争に際しては,マラトン,アルテミシオン,テルモピュライなどで敢闘したギリシア人の武勇を称える幾多の詩を残したのち,シチリア島シュラクサイ(シラクサ)の僭主ヒエロン1世に招かれて晩年の活躍期をこの地で過ごし,同島のアクラガスで没した。
作品としては合唱抒情詩の形式による諸神の祭祀詩,個人の祝勝や祝賀の詩,葬礼追悼詩や,ディテュランボス詩(抒情的物語詩)など多くの分野における新風を興すものがあったと目されるが,現存する断片は僅少である。言語・措辞はステシコロス以来の伝統に従うものであったが,律格の面では必ずしも同一の傾向であったとは認められない。シモニデスの特色は,《ダナエ》断片からうかがわれるように優美な色彩感覚と映像性を伴う憂愁を抒情的に語るとき,あるいはまた《スコパスへの歌》に現れるような厳粛な人間観を格言まじりの平易な言葉で語るとき,特に著しいと思われる。〈絵画は物いわぬ詩,詩は物語る絵画〉というシモニデスの言葉は,彼自身の詩文の理想であったのかもしれない。他方,エレゲイア形式の墓碑銘も数多くシモニデス作として伝存している。中でもテルモピュライの戦死者碑銘である,〈旅人よ,行きて告げよラケダイモンの人々に,かの地の掟に従い,われら此処に伏す〉という一編は有名であるけれども,真作と認められるものはきわめて少ない。
シモニデスはまた,哲学誕生以前の〈知者〉としても名声をうたわれ,彼の金言集やエピソード集のごとき散文文学の存在も知られている。前4世紀のクセノフォンも対話集《ヒエロン》で,王者たるものの真の英知や徳を論ずるシモニデスを描いているし,プラトンや後世ローマのキケロなども,知恵の人シモニデスにしばしば言及している。
執筆者:久保 正彰
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古代ギリシアの叙情詩人。エーゲ海のケオス島の出身。若いときから詩人として活躍し、名声を博した。アナクレオンなどとともにアテネの僭主(せんしゅ)ヒッパルコスの宮廷に招かれ、合唱隊歌の競演でたびたび優勝したが、ヒッパルコスの死後テッサリアの貴族スコパダス家に滞在し、戦車競技における一族の勝利をたたえた。ペルシア戦争の際アテネへ戻り、マラトンやテルモピレーなど数々の合戦の戦死者をたたえる歌や戦勝を感謝する歌をつくった。ペルシア戦争ののちシラクサの僭主ヒエロンに招かれてシチリアへ赴き、そこで死んでアクラガス(アグリジェント)に葬られた。彼の詩は、賛歌、合唱隊歌、競技祝勝歌、挽歌(ばんか)、宴歌、碑銘詩など多方面に及んだが、かなりの数の碑銘詩を除き、わずかの引用とパピルス断片しか残っていない。その優美な文体と洗練された語句は古くから人々の嘆賞の的であった。幼いペルセウスとともに箱に入れられ大海へ流されたダナエを歌う詩は、荒れ狂う自然と無力の人間、恐ろしい運命におびえる母親と安らかに眠る幼児の対照が印象的である。「詩は語る絵画である」という彼のことばは作風をよく言い表している。
[岡 道男]
『呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』(岩波文庫)』
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前556頃~前468
ギリシアの抒情詩人。ケオス島の生まれ。優れた詩才を持ち,アテネその他ギリシア各地から招かれ,シチリアのアクラガスで客死。テルモピュレーの戦いでの戦死者を悼(いた)む彼の詩はことに有名。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…抒情詩を代表するのはアルカイオスと女流詩人サッフォー(ともに前7世紀)で,ついでアナクレオンが出るが,いずれも古くから伝わる独唱歌の様式を踏んでいる。他方,合唱歌の作者としてはシモニデス,ピンダロス(ともに前6世紀から前5世紀)があり,これは公式行事や祭儀で歌われた。前者は碑銘詩の作者としても知られ,後者はオード形式の範とされる。…
…ケオス島の生れ。ほぼ同年齢のピンダロス,叔父で彼に音楽教育をしたシモニデスとともに抒情詩期のギリシア文学史の頂点を形成した。1896年エジプトで発見されたパピルスによって,彼の詩行も,かなりまとまった形で知られるようになった。…
※「シモニデス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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