ジャガイモ(読み)じゃがいも

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャガイモ」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ
じゃがいも
[学] Solanum tuberosum L.

ナス科(APG分類:ナス科)の多年草。ジャガタライモバレイショ(馬鈴薯)、ゴショイモ(五升薯)などともいう。世界のいも類のうちでもっとも広い範囲に、もっとも大量に生産されている重要作物である。茎は高さ0.5~1メートルになり、若い茎の断面は円形であるが、成長するとやや角張り3~5稜(りょう)の稜翼が発達する。葉は羽状複葉で互生するが、生育初期の下位の葉は単葉である。また、若い葉は顕著な就眠運動を行う。茎葉は多汁質で特有の臭気がある。茎の頂部から、先端部で2~3本に分かれる長い花柄を出し、それぞれの先に数個の花をつける。萼(がく)は5枚で短く、花冠は星形に5裂する。花冠の色は白、紫、黄色など。風媒花であるが、ほとんどが自家受粉する。果実は直径1、2センチメートルで、トマトに似た形で黄色に熟す。果実内部は2室に分かれ、100~400個の種子がある。地下部の茎から、はうように伸びる匍匐茎(ほふくけい)を出す。ジャガイモではこれを匐枝(ふくし)といっているが、花の咲くころ、この先端部に塊茎(いも)が形成される。すなわちジャガイモのいもは匐枝の先端部の12~20の節が詰まって肥大したものである。いもの形は品種により丸いものから細長いものまでさまざまで、栽培環境でも多少形が変わる。ジャガイモの目とよばれるくぼみは、節の葉と枝が生ずる部分で、それぞれの目には数個の潜芽群がある。いもの表面は周皮で、白、黄、黄褐、紅、紫色などを呈し、成熟するとコルク層となる。その下の数ミリメートルから1センチメートルの部分は皮層で、その内側に維管束輪があり、その内側の大部分は髄である。

[星川清親 2021年6月21日]

栽培

いもの芽は、収穫後一定の休眠期間を経過したのち、適当な条件のもとで発芽する。栽培には、2~4個に切断した種いもを植え付ける。春作の植え付けは、北海道で5月上・中旬を中心に4月下旬から6月上旬まで、本州の中部以北地帯では3月中旬から4月上旬まで、暖地は2月上・中旬である。暖地では秋作も行われ、7月下旬~9月中旬に植え付ける。植え付ける深さは5センチメートル、条間60~70センチメートル、株間は30~35センチメートルとする。発芽までに日数がかかるので、植え付け後、2~3日目に除草剤を散布する。培土は除草を兼ねて1~2回行い、つぼみがつく時期までには終わらせる。ジャガイモはウイルスによる病気が重大であるが、ウイルス病に効く薬剤はないので、薬剤による防除は困難である。そのため、健全な種いもを用いて、ウイルス病を予防することがたいせつで、日本では農業・食品産業技術総合研究機構の種苗管理センターがウイルスをもたない原原種を生産し、これをもとにして種いもを生産し、全国に配布するシステムが敷かれている。

 収穫は、茎葉が黄変して枯れ、いもが充実し、周皮がはげにくくなり、匐枝から離れやすくなったときに行う。北海道では早生(わせ)品種で8月下旬~9月上旬に、晩生(おくて)品種で10月上旬に収穫する。暖地の春作は6月下旬~7月上旬に収穫し、秋作の収穫は11月~12月となる。貯蔵は初め10℃くらい、しだいに低温にし、最終温度は2~4℃で呼吸を抑えると、新鮮度を保つ。簡便法として土に埋める土溝法も行われる。食用や加工用の貯蔵には、マレイン酸ヒドラジドやγ(ガンマ)線による発芽抑制処理も行われ、周年出荷が図られている。

[星川清親]

品種

日本の主要品種は男爵である。これは、アメリカから導入したアイリッシュ・コブラーの馴化(じゅんか)品種で、早生でやや扁球(へんきゅう)形、黄白色、目が深くくぼみ、肉は白色で収穫量は多い。そのうえ味がよく、食用として全国的に栽培されている。ついで作付面積が多いのは農林1号である。これは、中生(なかて)種でやや扁球形、黄白色で味がよい。食用、デンプン兼用の品種で収穫量も多い。北海道をはじめ全国で栽培され、暖地の秋作にも用いられる。

 これらのほか、主要品種として、紅丸(べにまる)は晩生種で、いもは長卵形、淡紅色で、味はよくないが収穫量が多く、デンプン用に栽培される。おもに北海道でつくられるが、九州でも栽培される。メークイーンは中生種で、長紡錘形、肉は黄白色で味がよく、煮くずれしにくい優良種である。北海道南部、九州で栽培される。新品種として、食用のワセシロ、加工用のトヨシロ、デンプン原料用のビホロ、タルマエなどがあり、有望視されている。秋作用の品種には、タチバナ、ウンゼン、シマバラ、チヂワ、デジマなどがある。

[星川清親]

生産高

世界の総作付面積は1930万ヘクタール、総生産高は3億8819万トンである。生産高の順にあげると、第1位が中国で9921万トン、第2位がインドで4861万トン、第3位がロシアで2959万トン、第4位がウクライナで2221万トン、第5位がアメリカで2002万トンとなっている(2017)。ほかにドイツ、バングラデシュポーランド、オランダ、フランスなどが主産国である。

 日本の生産状況(2015)をみると、作付面積は7万7400ヘクタール、生産高は240万6000トンである。そのうち北海道が全国の収穫量の79%を占めており、明治以来の第1位の生産地である。ついで東北、関東に多い。西南暖地では一般に少ないが、長崎県は春植7万4500トンと秋植1万8500トンを加えて9万3000トンで、全国第2位の生産県である。

[星川清親 2021年6月21日]

起源と伝播

現在広く栽培されるものは四倍種で、アンデス山岳地帯のペルーとボリビアにまたがる標高4000メートルにあるティティカカ湖周辺で、500年ころに成立した。それまでは数種の二倍種がペルー、ボリビアを中心にエクアドルコロンビアベネズエラの限られた地域で栽培されていた。

 四倍種の起源については、栽培二倍種であるステノートマムS. stenotomum Juz. et Buk.と同じく栽培二倍種のフレーヤS. phureja Juz. et Buk.との雑種の染色体倍加によるとする説と、ステノートマムと野生二倍種のスパルシピラムS. sparsipilum (Bitt.) Juz. et Buk.との雑種の染色体倍加によるとする説の2説がある。このいずれかによって栽培四倍種のアンディゲナS. andigena Juz. et Buk.が成立した。このアンディゲナが南北に伝播(でんぱ)し、コロンブスの新大陸発見(1492)当時にはメキシコからチリ南部に至る地域で栽培されていた。アンディゲナは長日条件下ではいもが形成されないが、この伝播の過程で、長日下でもいもを形成する、現在の栽培種テュベローサムS. tuberosum L.が成立した。

 旧大陸へは、1570年にメキシコからスペインに導入され、16世紀に広くヨーロッパの北方の国々に伝播した。イギリスにはこれとは別に1590年に導入、北アメリカには1621年にヨーロッパから導入された。インドには16世紀に、インドネシアや中国には16世紀にオランダ人により導入された。

[田中正武 2021年6月21日]

 日本には1601年(慶長6)に、ジャカトラ港(現在のジャカルタ)からオランダ船によって長崎県の平戸(ひらど)に運ばれたのが最初で、ジャガタライモと名づけられた。それが略されてジャガイモとよばれるようになった。寛政(かんせい)年間(1789~1801)にはロシア人が北海道や東北地方に伝え、エゾイモの名で東北地方へ広がった。日本でも最初はヨーロッパ同様観賞植物扱いであったが、その後飢饉(ききん)のたびに食糧として関心が高まった。甲斐(かい)(山梨県)代官中井清太夫(せいだゆう)の尽力により、食糧難を乗り越えたことから「清太夫いも」の名でよばれたこともあるなど各地に逸話が残っている。こうして19世紀後半の幕末までには救荒作物として全国的に広がった。しかし本格的に普及したのは、明治初期に北海道開拓使などがアメリカから優良品種を改めて導入してから以降のことである。

[星川清親 2021年6月21日]

食品と利用

ジャガイモはデンプン含量が高く、味がよく、また淡泊なので主食にも適している。野菜としていもを調理する場合と、いもからとったデンプンを利用する場合とがある。日本では、ジャガイモの秋作の大部分と、春作の約20%が野菜として消費されている。いもの可食部100グラム中には、炭水化物17.2グラム、タンパク質2グラム、脂質0.2グラムが含まれ、77キロカロリーである。ビタミンB1、Cなどもかなり多く、これらの給源としても重要である。いもには、ソラニンsolaninというアルカロイド配糖体が100グラム中2~9ミリグラム含まれ、とくに若いいもや、成熟したいもの芽や皮の部分に多く、いもが日光に当たって緑色になると急増する。ソラニンは苦味があり、多量に摂取すると有毒なので、調理の際に芽や緑色になった皮部がある場合は除去する。

 調理法は非常に多いが、和風ではみそ汁の実や煮つけなどに利用される程度である。洋風では、ポタージュ、シチュー、バター煮、粉吹(こふ)きいも、マッシュポテト、ポテトグラタン、ベークドポテトポテトチップフレンチポテト、コロッケなど、煮物から焼き物、揚げ物と多様である。ジャガイモの原産地の南アメリカ、アンデス高地では、チューニョchuñoとよばれるインディオのジャガイモ料理が、2000年来続いている。収穫したいもを戸外に置くと、夜間凍結し、日中に解氷する。これを1週間ほど続けたのち、何度も足で踏みつけて、残っている水分と苦汁を絞り出す。さらに1週間ほど凍結・解氷を繰り返すと、コルク状で軽くて堅く乾いたチューニョができる。これを水につけてもどし、肉とともに煮るのがインディオの料理法である。中国料理の材料の洋芋は、ジャガイモの皮をむき一度蒸してから乾かしたものである。

 デンプンの含有率は、野菜用では十数%であるが、デンプン採取用品種では30%に達するものもある。日本では、生産量の約35%がデンプン採取用である。ジャガイモのデンプン粒は大粒で品質がよく、かまぼこなどの水産練り製品に使用されるものが量的にもっとも多い。ほかに紡績、製紙の糊料(こりょう)とされる。菓子用には、ジャムの添加物や飴(あめ)に使用される。アルコール、焼酎(しょうちゅう)の製造の原料にもなる。市販のかたくり粉はほとんどがジャガイモデンプンである。また、薬用にも使われ、日本薬局方のバレイショデンプンは、天花粉(てんかふん)(キカラスウリの根のデンプン)の代用として「シッカロール」(汗知らず)に配合される。

[星川清親]

文化史

ジャガイモの伝播(でんぱ)には諸説があるが、遅くとも16世紀末までに、スペイン、イタリア、オランダ、イギリスなどに伝わり、チューリップをオランダにもたらしたライデン大学教授のクルシウスやイギリス本草学の祖ジェラードなど植物学者の注目を浴びた。続く17世紀はヨーロッパではジャガイモが冷遇された時代で、らい病をもたらすとか、聖書にない不浄の作物として嫌われた。ヨーロッパでもっとも早く普及したのはプロイセン(ドイツ)で、フリードリヒ1世(在位1701~1713)が栽培を義務づけて奨励、次のフリードリヒ・ウィルヘルム1世(在位1713~1740)は農民に栽培を強制し、反対者を武力で押さえた結果、ムギ類にかわって主食になり、戦争や天候不順で十分な食糧生産ができなかった地が飢えから解放され、国力も増し、19世紀のドイツの発展につながった。

 フランスでは薬学者のアントアーヌ・オーギュスタン・パルマンティエがジャガイモの優秀性に気づき、1773年にルイ16世(在位1774~1792)にジャガイモの花束を献上し、救荒食物として勧めた。それに賛同した国王は王妃マリ・アントアネットにその花を身に着けさせて夜会に臨ませ、社交界の関心を集めさせた。一方、ジャガイモ畑に国王の親衛隊を派遣、昼間は見張りをさせるが夜は監視を解いて引き上げさせ、「国王の作物」を盗み出しやすいようにして庶民に広める作戦をとった。パルマンティエはジャガイモ料理を種々考案し晩餐(ばんさん)会をたびたび開いて、上流階級への普及に努め、その名を現在もフランスのいくつかのジャガイモ料理にとどめている。イギリスでもジャガイモは国策によって評価が左右された。ジョージ2世(在位1727~1760)の時代は法令で禁じられたこともあったが、ジョージ3世(在位1760~1820)の時代に広く行き渡った。

 日本へは江戸初期に渡来し、当初は南京(ナンキン)芋の名も記録されている(『長崎両面譜』1576)。馬鈴薯(ばれいしょ)の名は、小野蘭山(おのらんざん)が『耋莚小牘(てつえんしょうとく)』(1808)で、ジャガタライモを中国の『松渓懸志』に出るつる植物の馬鈴薯に誤ってあてたことに始まる。この誤用に牧野富太郎は強く反対した(『科学知識』14―5「植物裁判」)。現在、文部科学省をはじめ教科書や、おもな植物図鑑などではジャガイモの名をとるが、農林水産省の試験場などではバレイショで通用している。ジャガイモの主要品種の男爵は函館船渠(はこだてせんきょ)(現、函館どつく)専務の川田龍吉(かわだりょうきち)男爵にちなんだ名で、1907年(明治40)アメリカから導入した品種のアイリッシュ・コブラーIrish Cobblerが、北海道七飯(ななえ)町にあった彼の農場から広まったことによる。英名は、アイルランドの靴屋のことで、それをみいだした人の職業からつけられた。もう一つの代表品種メークイーンMay Queenは、イギリスの品種で、1917年(大正6)渡来した。

[湯浅浩史 2021年6月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ジャガイモ」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ
potato
Irish potato
Solanum tuberosum L.

いも(塊茎)を食用およびデンプン原料用とするナス科の多年草。バレイショ(馬鈴薯),ジャガタライモともいう。世界のいも類のうちで,最も広範囲に,最も大量に生産されている。

草丈は0.5~1m,若い茎は断面が円形であるが,生長すると三~五角にやや角ばる。初期は直立するが,生長すると匍匐(ほふく)するタイプがある。生育初期の葉は単葉,しだいに上位の葉ほど小葉の多い複葉となる。若い葉は顕著な就眠運動を行う。茎葉は多汁質で,特有の臭気がある。茎の地下部の各節からは,ふつう1本の匐枝(ストロン)を生じ,その先端が肥大して塊茎すなわちいもとなる。塊茎の形は,球,扁球,楕円,長楕円,紡錘,卵,腎臓形など多様で,品種の特徴となるが,栽培環境でも多少変形する。塊茎の最外層は周皮とよぶ7~8層の細胞に包まれ,成熟するとコルク質となり,また皮目がある。周皮の内側は数mm~1cmの皮層部で,外皮層と内皮層の2層からなる。これが厚皮と呼ばれる部分である。その下に維管束輪があり,その内側の大部分は髄で,外側を外髄,最内部を内髄という。

 ジャガイモの塊茎の〈目〉といわれるくぼみは,通常の茎における葉および側枝の生ずる部分,すなわち葉腋(ようえき)に相当し,葉に相当するところに鱗片が認められる。〈目〉には数個の潜芽がある。この芽は茎の側芽に相当し,生長点および葉原基を分化している。これらの潜芽のうち中央にある主芽のみが萌芽することが多い。茎の頂部に集散花序を生じ,2~3本に分かれて長い花梗を抽出し,花をつける。萼は5片,花冠は5裂し星形で,花弁の色は白,紫で,黄色の葯が目だつ。通常は虫媒花だが,ほとんどは自家受精する。果実は直径1~3cmの球形で,トマトに似た漿果(しようか)である。開花後4~5週間で成熟すると,黄色になる。中に長さ2mm,幅1.5mmの腎臓形をした種子が100~400個入っている。

世界の総作付面積は約1800万ha,総収穫量は2.5億から3億tにものぼる。主生産国は中国,ロシア,ポーランド,アメリカなどである。日本におけるジャガイモ栽培は,すでに江戸時代に入っていたが,明治初期に北海道開拓使などが,アメリカから優良品種を北海道へ改めて導入してからようやく本格化した。当初は1万haにみたなかったが,明治時代末期には6万haと増加し,さらに大正時代には15万haに達した。その後は横ばい状態が続いたが,第2次大戦後になって再び増え,昭和40年代に入るまで約20万haの栽培が続いた。しかしその後年々減少し,昭和50年代半ばには約12万ha,1995年には約10万haの作付けになっている。地方別では,北海道が明治以来の第1位の生産地で,全国の生産量340万tのうち2/3以上の生産をあげている(1995)。ほかでは東北,関東,九州に多く,とくに長崎県は北海道に次ぎ第2位の産地となっている。

日本では,明治初期以来もっぱら欧米品種の導入を行い,現在もなお主要品種である男爵やメークイーンが普及した。春作品種では男爵が全作付けの半分近くを占め,次いで農林1号,紅丸(べにまる),メークイーン,エニワなどが続く。秋作用には,農林1号,タチバナ,ウンゼン,デジマ,シマバラ,チヂワなどがおもなものである。新しい品種として有望視されているものに,デンプン原料用のビホロ,タルマエ,食用のデジマ,ワセシロ,加工用のトヨシロなどがある。

 栽培は春植えつける春作を主体とするが,夏に植えつける秋作や両者の中間型など,地域によって各種の作型がある。いずれの場合も粒ぞろいのよい(100g程度),病害のない種いもを選ぶことが重要で,とくにウイルス病に注意を要する。種いもは普通2~4個に切断して植えつける。植えつけ時期は,北海道では4月下旬から5月上・中旬を中心に6月上旬まで,暖地は2月上・中旬,中間地域は3月中旬から4月上旬である。秋作は7月下旬~9月中旬に植えつける。ジャガイモは,増肥による増収および品質向上の効果が大きい作物である。ふつうの肥沃度の土で,10a当り窒素8~10kg,リン酸10~12kg,カリ12~15kg,堆肥1~2tの施用を標準とする。培土は除草を兼ねて1ないし2回,必ず着蕾(ちやくらい)期までに終わるようにする。茎葉が黄変して枯死し,塊茎の内容が充実し,皮がはげにくくなり,匐枝より離脱しやすくなったときが収穫期である。収穫後,損傷いも,病虫害いもを選別除去してから,ただちに日陰の涼しい所に広げて乾燥させる。

 なお,いもを日光にあてると緑色になり,ソラニンsolanineというアルカロイド配糖体が形成される。これは苦みがあり多量に食べると中毒を起こす。ソラニンは若い塊茎に多く,成熟したいもでは芽の部分に局在する。
いも
執筆者:

日本への伝来を江戸初期とする説があり,ジャカトラ(現,ジャカルタ)港からオランダ船によって伝えられたのでジャガタライモと呼ばれ,これから現在のジャガイモの名が生じたとされる。しかし,宮崎安貞,貝原益軒はじめ江戸前期の著作には名が見られない。栽培記録としては1706年(宝永3)に北海道の瀬棚で松兵衛なる者が植えたといい,また本州では明和年間(1764-72)に甲斐の代官中井清太夫が栽培を奨励したという。高野長英は《二物考》(1836)に異名を列挙する中に〈甲州イモ〉〈清太夫イモ〉の名を掲げ,〈荒年ノ善糧ト云フベシ〉としている。救荒作物としてサツマイモと並ぶ重要性をもつが,味が淡泊なので料理の応用範囲が広い。和風には煮物や汁の実にすることが多く,洋風ではサラダ,コロッケのほかカレー,シチューなどの煮込みやグラタンなどにも使い,粉ふきいも,マッシュポテト,フライドポテトなどにして付合せにも多用される。薄切りにして揚げたポテトチップはビールのつまみなどに好適であるが,近年は間食用のスナック菓子としての人気も高い。ドイツやロシアでは主食的にも用いられるが,皮つきのまま蒸すかゆでるかして,バター,塩,あるいはサワークリームで食べるのもよい。調理の場合,切ったものは必ず水にさらすことで,そのまま置くとチロシンなどの酸化で黒くなる。また,芽の部分にはソラニンが含まれており,中毒を起こすことがあるのでよく取り除いたほうがよい。
執筆者:

ジャガイモ属Solanumは約150種の野生種と8種の栽培種からなる。この野生種は南北両アメリカ大陸を通じ広く分布している。最も多くの近縁野生種がみられ,また種内の変異が多様な地域はペルー南部からボリビア北部にかけての中央アンデス中南部高地,とくにチチカカ湖周辺部である。これらの点からジャガイモ属が最初に栽培化されたのは500年ころの中央アンデス中南部高地とみなされ,ジャガイモもこの地域で起源したものであろう。ペルーやチリの遺跡からジャガイモをかたどった土器が発掘されていることからも,ジャガイモの栽培がすでに盛んになっていたことを示している。ここから16世紀にヨーロッパに伝えられ,やがて寒冷地を中心に広く世界中に伝えられた。

 しかしこれらの栽培種のいくつかは,現在もアンデス高地だけで栽培されている。その代表的なものは三倍種のS.juzepczukiiと五倍種のS.curtilobumで,これら両種の栽培はアンデスのなかでも中央部に限定される。両種とも,あくが強くて,チューニョchuñoとよばれる食品に加工して初めて食用となる。チューニョは,中央アンデス高地の気候の特徴を利用して,いもの凍結,解凍をくりかえした後,脱水した乾燥ジャガイモのことである。乾燥していて軽く,かさも小さいため,貯蔵や輸送に便利な食品となっている。
執筆者: 南アメリカにおけるジャガイモの栽培は,1526年の征服者ピサロのスペイン本国への報告によって初めて旧大陸に知られるところとなった。ヨーロッパへの伝播(でんぱ)については,その時期,経路などについてさまざまな説があるが,16世紀中ごろにはジャガイモの塊茎がスペイン人によってイベリア半島の本国に持ち帰られ,そこから,ブルゴーニュ,イタリア,ドイツへと伝えられていった。イギリスへは,1586年ころ別の経路でバージニアから輸入されたといわれる。最初は,植物学者によって各地の植物園,薬草園で栽培され,1585年にはドイツのタベルナエモンタヌスJacob Theodor Tabernaemontanus(1520?-90)が最古と思われるジャガイモの植物学的記述を残している。

 ヨーロッパに入ったジャガイモは,当初はその枝葉や花が好まれ,もっぱら観賞用であった。ルイ16世の王妃は帽子の縁にジャガイモの花枝を飾ったという。また,薬として特別な効用があるとも信じられていた。食用としては,1616年にはすでにルイ13世の食卓に珍品としてのぼったが,大陸では17世紀中はまだ金持ちの嗜好品(しこうひん)にすぎなかった。

 ジャガイモが食用作物として本格的に栽培されるようになったのは,17世紀のアイルランドにおいてである。小麦やライ麦などの穀類の数倍の収穫高を示すジャガイモは,戦乱や飢饉で荒廃した畑に積極的に植えつけられた。18世紀には大陸諸国にも広く普及し,とくに七年戦争(1756-63)は大きな契機となった。諸侯は食糧物資としてのジャガイモの価値を認識して,その栽培を奨励し,フリードリヒ2世(大王)がポンメルンとシュレジエンにこれを導入したことはよく知られている。また,七年戦争でポンメルンに出兵したスウェーデン軍がジャガイモを北ヨーロッパに移入することになった。

 ジャガイモ栽培はドイツでは,19世紀に入ると国策と印刷物による手引書の普及とあいまって飛躍的拡大をみせ,むしろ零細経営の農家や穀作に適さないやせた土地で成果をあげ,貧農や都市労働者を飢えから救った。他方,フランスでの普及は比較的遅く,七年戦争の際にプロイセンの捕虜となって食糧としてのジャガイモの価値を身をもって体験したパルマンティエAntoine Augustin Parmentier(1787-1813)の貢献が大きい。東ヨーロッパへの伝播にはドイツ人植民者の役割が大きく,ロシアではツァーリが国有地農民にジャガイモの強制植付けを命じ,これに反対する農民の大規模な暴動が起こった(1840-44)。こうしてヨーロッパに普及したジャガイモは,ここからさらに北アメリカへ逆輸入され,またアフリカ,インド,東南アジアに伝えられた。中国に入ったのは19世紀末で,東北地区などの寒冷地で栽培され,五穀の不作を補うものとなった。
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食の医学館 「ジャガイモ」の解説

ジャガイモ

《栄養と働き》


 原産地はアンデスで、世界でもっとも多く栽培されている野菜です。わが国へは16世紀にオランダ人によってジャワのジャガタラ(現在のジャカルタ)から伝わりました。そのため、当初は「ジャガタライモ」と呼ばれ、それが略されてジャガイモとなったといわれています。「馬鈴薯(ばれいしょ)」の別名ももちますが、これは馬につける鈴に形が似ていることから呼ばれるようになったといいます。
〈でんぷん質にガードされ、加熱してもビタミンCは豊富〉
○栄養成分としての働き
 主成分はでんぷんですが、ビタミンB1、C、食物繊維なども多く含み、穀類や他のイモ類にくらべてカロリーが低いので、ゆでて食べる分には肥満を気にせず食べられます。
 しかも、このでんぷん質がビタミンCを保護するので、加熱してもこわれにくいのが特徴です。Cはコラーゲンの生成に不可欠な成分で、抗酸化作用、抗がん作用、免疫力を高めるといった働きをします。粘膜(ねんまく)を強化するので、胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、下痢(げり)などに効果があります。
 また、「カリウムの王様」といわれるほどカリウムの含有量が高い点も魅力です。カリウムは体内のナトリウムを排泄(はいせつ)し、血圧を下げる働きをするので、高血圧予防や腎臓(じんぞう)の機能低下で尿がでにくくなっている場合にも有効です。
 さらに、胃腸を丈夫にし、臓器の筋肉組織を活性化する働きもあります。アレルギー体質を改善する作用もわかっています。カリウムのこうした働きを活かし、アレルギー性ぜんそくや皮膚炎などでは「カリ療法」という名で、ジャガイモが利用されているといいます。
 カリウムは熱に強く水に溶けやすい性質があるので、カリウムを多くとりたいときは、煮汁ごと食べるようにします。
○注意すべきこと
 ただし、腎炎(じんえん)などでカリウムの摂取を制限されている人は、たくさんとるのは避けましょう。
 芽や皮の青い部分にはソラニンという有害物質が含まれていることが多く、たくさんとると下痢やめまい、胃腸障害などの中毒症状を起こします。芽をしっかり取り除き、青い皮は厚くむいて調理しましょう。

《調理のポイント》


 5~6月に出回る新ジャガと11~2月に出回る冬物とがあります。新ジャガは皮つきのままゆでて煮っころがしにします。
 イモの品種別に適した調理法は、男爵(だんしゃく)はでんぷんが多く粉質なので、粉吹きイモやコロッケ、マッシュポテトに、メイクイーンは煮くずれしにくいので、煮込み料理や炒(いた)めものにむいています。
 調理の際は、切ってすぐに水にさらします。そのまま放置すると、ジャガイモに含まれるチロシンという成分が酸化して黒くなってしまうからです。
 日光にあたるとソラニンがふえるので、袋などに入れて日のあたらない場所で保管しましょう。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャガイモ」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ
Solanum tuberosum; potato

ナス科の多年草。南アメリカのアンデス地方の高地の原産といわれる。トウモロコシとともに長い間インカ文明を支える主要な食糧であった。コロンブス以後スペイン人によってヨーロッパに紹介され,今日では世界各地で栽培されている。茎は高さ 70cmくらい,緑色でやわらかく特有の匂いがある。地下に多数の地下茎を伸ばし,その先がしだいに肥大して塊茎)となる。塊茎の大きさ,形,色などは品種によりさまざまである。葉は羽状複葉で互生する。出芽から 1ヵ月を過ぎる頃,白色または淡紫色の花を開く。花冠は径 2~3cmの合弁で,星形に浅く 5裂する。日本には 16世紀の終わり頃,オランダ船がジャワのジャガタラ(今日のジャカルタ)からもたらした。そのためジャガタライモまたはジャガイモという呼び名がついた。明治年間になって外国から優良品種が導入されて以来,栽培が盛んになって全国的に普及した。おもな産地は北海道で,東北地方がこれに次ぐ。日本で栽培される代表的な品種は男爵,メークインである。

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百科事典マイペディア 「ジャガイモ」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ

バレイショ(馬鈴薯)とも。アンデス温帯地方原産のナス科の多年生作物。17世紀に入ってからヨーロッパで本格的に栽培されはじめた比較的新しい作物である。収穫部分が地下に形成されるため,低温等の不良環境に強く,救荒作物として飢饉を救ったといわれる。日本へは16世紀末にジャワのジャカルタから渡来したのでジャガタライモとも呼ばれる。地下茎の先端に肥大したいもを形成する。葉は3〜4対の小葉からなる複葉。花は白,黄,淡紫色等となるが,結実することはまれ。果実はトマトに似る。いもは多量のデンプンをたくわえ,食用となる。男爵,農林1号,メークイーン,紅丸など品種も多い。冷涼な気候を好み,生育期間も短いので,栽培適地はひじょうに広く,また年間を通じて作られる。主産地はロシア,ポーランド,ドイツ,米国。日本では北海道。欧米では主食とするところもあるが,日本では蒸したり煮て食用とするほか,マッシュポテト,ポテトチップなどとし,またデンプンをとる。なお食用にあたっては芽や緑色部に多いソラニンの中毒に注意。
→関連項目いも(芋/藷/薯)勇払平野

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ジャガイモ」の解説

ジャガイモ

ナス科の多年草。根の塊茎(こんけい)が食用として利用される。中央アンデスの原産で,ヨーロッパ人の到着以前に中央アメリカからチリまで拡がっていた。アンデス高地では主要食料であり,水分を抜き去ったチューニョという乾燥イモの状態で保存食として貯えられた。旧世界(旧大陸)には16世紀中に伝播し,初めは好意的に受け取られなかったが,18世紀にドイツをはじめ中・北ヨーロッパで急速に利用が進み,耐寒性のある栄養価値の高い食料として不可欠のものになった。

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栄養・生化学辞典 「ジャガイモ」の解説

ジャガイモ

 [Solanum tuberosum].バレイショともいう.ナス目ナス科ナス属の一年生作物.

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世界大百科事典(旧版)内のジャガイモの言及

【いも(芋∥薯∥藷)】より


【主要ないも類とその栽培地域】
 多くの野生や栽培植物がいもとして食用に利用はされているが,そのなかで生産量が多く作物として重要なものは数種である。 サツマイモ(英名sweet potato)は,中央アメリカの熱帯原産のヒルガオ科植物で,根が肥大していもを形成する。コロンブスのアメリカ大陸発見以前は,中南米とオセアニアの一部で栽培されていたが,現在では広く熱帯圏のみならず,日本のような温帯圏の夏季作物として栽培されている。…

【アメリカ】より

…ここでは,一般に,標高約1000mまでは高温地帯(ティエラ・カリエンテ)で,熱帯植物で覆われる。その上方,標高約2300mまでは温暖地帯(ティエラ・テンプラダ)で,コーヒーなどの栽培に適し,さらに上方,標高約3300mまでは冷涼地帯(ティエラ・フリア)で,低い所は広葉樹林帯,高い所は低木帯や草原に移行し,小麦,トウモロコシ,ジャガイモなどが栽培される。さらに上方の標高約4300mまでは寒冷地帯(プーナ)と呼ばれ,大麦,ジャガイモが植えられる。…

【いも(芋∥薯∥藷)】より

…作物として栽培されているものでも,キャッサバの苦味品種群のように青酸配糖体を含有していて有毒で,食用に供するためには毒抜きを必要とするものがある。しかし,植物の地下貯蔵器官は収穫が簡単で,種子に比較すると採集しやすいため,現在でも熱帯圏でのヤマノイモ類,キャッサバ,サトイモ類や温帯のジャガイモのように,いも類は主食として多く利用されている。 日本では弥生時代以前の縄文時代に,すでにいも類をともなった雑穀農耕が行われていたと考えられている。…

【コロラドハムシ】より

…甲虫目ハムシ科の昆虫(イラスト)。Colorado beetleまたはpotato beetleと呼ばれ,ジャガイモの大害虫として知られる。原産地の北アメリカで野生のナス科植物を食べていたが,1855年ごろ,コロラド地方でジャガイモが栽培され始めると,ジャガイモへ寄主転換を行い,猛烈な勢いで分布を広げた。…

【農耕文化】より

…それらは二つの大類型に区分することができる。
[根栽農耕文化]
 新大陸では,南アメリカの熱帯低地で大きないものとれるキャッサバ(マニオク)と旧大陸のタロイモによく似たヤウテアが栽培化され,また中部アンデスの高地でジャガイモが,さらにメキシコでサツマイモが栽培化されるなど,すぐれたいも類が作物化されている。このうち南アメリカ東部の熱帯低地に展開した文化は,キャッサバを主作物とする焼畑農耕を生業の基礎とした典型的な根栽農耕文化である。…

※「ジャガイモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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