日本大百科全書(ニッポニカ) 「スイゼンジノリ」の意味・わかりやすい解説
スイゼンジノリ
すいぜんじのり / 水前寺苔
[学] Aphanothece sacrum (Sur.) Okada
藍藻(らんそう)植物。微細な細胞が集まって群体をなしている淡水産藻類。熊本市水前寺に近い江津(えづ)湖が原産地であるためこの名がつけられ、天然記念物に指定されているが、江津湖の汚濁に伴い、保護が必要となっている。スイゼンジノリは、1872年オランダのスリンガーSuringarが『日本藻類図解』にPhylloderma sacrum Sur.として発表したが、1953年岡田喜一によって学名は標記のように変更された。スイゼンジノリは、幅約4マイクロメートル、長さ6~7マイクロメートルの楕円(だえん)形の細胞が集まり、寒天質に包まれて群体をつくる。この群体は、暗緑色、不定形であるが、袋状または扁平(へんぺい)になり、多数集まって握りこぶしから人頭大の団塊になる。泉水・湧水(ゆうすい)地帯の周年水温が変化しない流水中に生育するため、適応性が狭い。このため、九州の熊本県および福岡県をおもな産地としている。
江戸時代にスイゼンジノリを食用としていた旨の記録がある。現在では、なまのものは湯通しにして食べるが、塩漬けや乾燥製品になったものは水にもどして、酢の物や吸い物などにして賞味される。また、みそ漬け、からし漬けなどでも売られている。「干し苔(のり)」は、採取した原藻を水洗いし、すりつぶして素焼の平瓦(ひらがわら)に塗り付け、なま乾きになったらそり瓦に張り替え、さらに木製の張り板に張り替えて最後の仕上げをする。おもな産地と製品名は、福岡県朝倉(あさくら)市の寿泉苔(じゅせんたい)・秋月苔、久留米(くるめ)市の紫金苔(しきんたい)、熊本市の水前寺苔などで、現在は自然水や地下湧水を利用した水田のような養殖場で栽培されている。
[安原健允]