日本大百科全書(ニッポニカ) 「スティグリッツ」の意味・わかりやすい解説
スティグリッツ
すてぃぐりっつ
Joseph Eugene Stiglitz
(1943― )
アメリカの経済学者。インディアナ州ゲーリー生まれ。1964年アマースト大学卒業、1966年マサチューセッツ工科大学で博士号を取得し、エール、プリンストン、オックスフォード、スタンフォードの各大学の教授を歴任し、その後コロンビア大学教授。クリントン政権下で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたほか、世界銀行(国際復興開発銀行)上級副総裁兼チーフ・エコノミストなども経験し、世界経済の政策運営などに大きな影響を及ぼす。1979年にジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞し、2001年にはG・A・アカロフ、A・M・スペンスとともに、「情報の不完全な市場での経済均衡についての分析」により、ノーベル経済学賞を受賞した。
スティグリッツの業績は労働、金融、保険市場などで膨大かつ広範囲に及んでいる。新古典派経済学は取引商品の同質性と完全情報下の競争的市場を前提とするが、情報が不完全で、とくに買い手が情報不足であって情報の非対称性が生じてしまい、市場も完全なものではないから、効率的資源配分が実現されにくいと主張する。労働市場において情報機能としての教育に着目し、教育が審査機能をもつが、非効率市場となる可能性を指摘する。金融市場では、信用割当が生じることを明らかにし、金融市場の効率性は情報を得るためのコストの問題であることを強調する。保険市場では、被保険者のリスク評価が困難なことから、モラル・ハザードが生じやすいとする。
市場と政府のバランスを重視する立場から、単に学者としてだけでなく、政府高官などの実務者として多方面で活躍しており、グローバリゼーションがアメリカの横暴によって、世界の人々の貧困を拡大させたと主張している。
[金子邦彦]
『藪下史郎・秋山太郎・金子能宏訳『スティグリッツ 入門経済学』第2版(1999・東洋経済新報社)』▽『藪下史郎・秋山太郎・金子能宏訳『スティグリッツ ミクロ経済学』第2版(2000・東洋経済新報社)』▽『藪下史郎・秋山太郎・金子能宏訳『スティグリッツ マクロ経済学』第2版(2001・東洋経済新報社)』▽『鈴木主税訳『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(2002・徳間書店)』