改訂新版 世界大百科事典 「センダン」の意味・わかりやすい解説
センダン
Melia azedarach L.
ヒマラヤ山麓地方原産と推定されるセンダン科の落葉高木で,古くからアジアの各地で植えられ,日本でも伊豆半島以南の暖地沿岸に野生状に生育している。また庭園樹,街路樹として植えられることも多い。英名はchinaberry(tree),Persian lilac,China tree,pride-of-India。pride-of-Indiaはモクゲンジもさす。また漢名は楝樹(れんじゆ)。大きいものでは樹高30m,直径1mになるが,ふつうはもっと小さい。葉は長さ25~90cmの2~3回羽状複葉で互生する。小葉は長さ3~6cmの卵状長楕円形で,全縁かまたは鋸歯がある。5~6月ころ,葉腋(ようえき)に生じた円錐花序に多数の紫色の花をつける。萼片は5枚で,小さく,早落性。花弁は5枚,長さ約8mmの長楕円形~披針形,淡紫色。おしべは筒状に合着し,筒部は紫色で,先は多裂し,その内側に10個の葯がある。果実は長さ約1.5cmの楕円形の石果で,10月ころ黄色に熟す。生育範囲が広いので,葉,果実などにかなりの形態的変異があり,いくつかの変種を認めることがあるが,明確な区別はむずかしい。同様にセンダン属Meliaも2種から20種ほどに分ける説がある。なお,〈栴檀(せんだん)は双葉より芳し〉の栴檀はビャクダンのことで,古人の誤解に基づく。木材は美しい光沢のある淡褐色~褐色の心材をもった環孔(かんこう)材。気乾比重約0.58,軽軟で加工しやすく,家屋内壁,家具,細工物用として良材であるが,まとまった量がとれない。若芽はゆで,水にさらして食用にされたことがある。生薬ではセンダンの果実を苦楝子(くれんし),樹皮を苦楝皮と呼ぶ。いずれもトリテルペノイドを含む。果実は他の生薬と配合して,消化器疾患,肝炎,胆囊炎などに鎮痛薬として,またカイチュウ駆除薬とする。樹皮は単独であるいは他の生薬と配合して,カイチュウ駆除に,またがんこな皮膚湿疹や疥癬(かいせん)などに外用する。
センダン科Meliaceaeは,ニガキ科,カンラン科,ウルシ科,ミカン科などとともにミカン目に属し,熱帯を中心に約50属1400種がある。ほとんどが木本で,マホガニーなど銘木として知られる多くの良材樹種を含む。
執筆者:緒方 健+新田 あや
民俗
センダンは古名を〈楝(樗)(おうち)〉といい,〈(あて)の木〉ともよばれた。アテは大工用語で反りやすい悪質の材木をいい,アテ地といえば日陰の耕地に適さぬ土地をさすように,悪い意味がある。楝は平安時代に獄門の前に植えられ,罪人の首をかけたといわれ,《源平盛衰記》や《愚管抄》などにも梟首(きようしゆ)の木とされている。今でも屋敷に植えるのを忌み,病人が絶えないとか家運が傾くといって嫌う所が多い。一方で,この葉は古くから5月の節供にショウブとともに軒に葺いたり身に帯びるものとされ,邪気を払う木と考えられていた。この木でいぼをこすって治すという民間呪術(じゆじゆつ)もセンダンの呪力に基づくものといえよう。またセンダンの木は葬式と関係が深く,墓に植えたり,火葬の薪や死者のつえのほか,棺おけにもされる。岡山ではこれで棺を作ると冥途の道が明るいという。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報