タガール文化(読み)タガールぶんか

改訂新版 世界大百科事典 「タガール文化」の意味・わかりやすい解説

タガール文化 (タガールぶんか)

エニセイ川中流域,ミヌシンスク盆地を中心に分布する初期鉄器時代に属する文化。前7~前3世紀。かつてミヌシンスク盆地青銅器文化は4期に分けられ,その最後の段階をミヌシンスク・クルガン文化と呼んだが,のちに編年が再考され,S.V.キセリョフによってミヌシンスク市対岸のタガールTagar島にちなんでこの名が付けられた。スキタイ世界の中の文化であり,馬具,青銅製鍑(ふく),鏡,動物意匠の芸術品などのスキタイ式の遺物に特徴をもっている。カザフスタンや中央アジアのサカ文化と近似する。前5世紀ころから少量の鉄器が出現するが,これは東部カザフスタンから搬入されたものであり,鉄器生産がこの地で開始されるのは前3世紀に入ってからである。深鉢形の黒色土器が使用されたが,その文様はスキタイやサカのものとは異なっている。農耕・牧畜を営む定着民であった。農耕は,青銅製の鎌・鍬をもって行い,ティスリスコエの墓から,キビとオオムギが発見されている。耕地は河川沿いにあり,灌漑も行われていた。牧畜獣は,ウシ,ウマ,ヒツジで,また乗馬の風が盛んであり,青銅製銜(はみ)も発見されている。集落址岩壁画の遺構も知られているが,多量のクルガンが著名である。地表に方形の石囲いと柱状の立石をもつ墳丘で,木槨の墓室が存在する。

 この文化の人びとの形質的特徴は,黒海周辺のスキタイ文化人,そしてアファナシエバ文化アンドロノボ文化の人たちに近似するコーカソイドであった。この文化の形成に当たって大きな役割を果たしたのは,前7~前6世紀には中部・北部カザフスタンと中央アジア,前5世紀には東部カザフスタンとアルタイ,さらにイランといった諸地域であった。
スキタイ文化
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タガール文化」の意味・わかりやすい解説

タガール文化
タガールぶんか
Tagar culture

ロシア,南シベリア,ミヌシンスク盆地に継起した新石器時代から鉄器時代の一連の文化 (ミヌシンスク文化 ) の一つ。前8~2世紀頃エニセイ川上流域で興り,前4~3世紀頃から鉄器を使用。河川に沿って集落址なども発見されているが,この期のおもな遺構は,方形の列石と隅に巨石の置かれた大小の墳丘をもつ墓である。クルガンと呼ばれる墳丘下には,通常木棺があるが,まれに板石で被覆された墓壙内に石棺が存在する場合がある。1人の男と1~2人の女と子供を伴う家族墓である。死者の頭蓋骨は,コーカソイド型の特徴を示している。この期の人々は定住的な灌漑農耕を行い,遊牧的な牧畜も多少行なっていた。ミヌシンスク近くのボヤラ山脈の岩壁画にみるように,集落はわら屋根の炉跡をもつ木造ないし泥の家で,天幕風の家もある。そして,これらの家の近くにやぎとしかが描かれている。タガール期の芸術は,獣形の模様をもつスキタイのものに類似する。ロシアの学者は,タガール文化のにない手は『史記』『漢書』にみえる丁零と説明するが,日本の学者のなかには反対意見もある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タガール文化」の意味・わかりやすい解説

タガール文化
たがーるぶんか
Тагар/Tagar

ロシア南東部、南シベリアのエニセイ川中流域を占めるミヌシンスク盆地を中心として栄えた青銅器文化。紀元前7世紀ころに、先行するカラスク文化にかわって登場し、前2~前1世紀ころにタシュトゥイク文化に移行した。住民の生業は牧畜であったが、同時に灌漑(かんがい)農耕も行われていた。タガール文化の青銅器、とりわけ短剣、馬具、鏃(やじり)、またそれらに装飾としてつけられた動物文様などには、当時ユーラシア草原全域にわたって流布していたスキタイ系文化との共通点が多く認められる。タガール文化の末期には鉄器が現れ、また死者をミイラ化したり、石膏(せっこう)で死仮面(デスマスク)をつくるなど、次のタシュトゥイク文化期に盛行することになる風習がみられる。

[林 俊雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「タガール文化」の意味・わかりやすい解説

タガール文化【タガールぶんか】

シベリアのエニセイ川中流にあるミヌシンスクMinusinsk盆地に発達した前7世紀―前3世紀ごろの青銅器文化。長方形の墳丘とストーン・サークル,立石をもつ墳墓〈クルガン〉を特徴とし,かつてはミヌシンスク・クルガン文化とも呼ばれたが,のちに編年等が再考されたのに伴って改称された。3期に分けられ,前500年―前300年ころの中期に最盛。スキタイ系の武器,馬具,容器などを作り,動物意匠も多い。内モンゴルのオルドス青銅器と密接な関係をもち,全く同様の青銅器も発見されている。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「タガール文化」の解説

タガール文化(タガールぶんか)
Tagar

前7~後1世紀初め,南シベリア,ミヌシンスク盆地を中心として初期鉄器時代の文化。盆地を流れるイェニセイ川のタガール島にある古墓から命名。定着的な牧畜を主とし,農耕も行われた。初期の墳丘はごく小さいが,前4~前3世紀には造営当時の高さ25~30mの封土を持つ古墳もつくられ,大きな権力の誕生が想定される。アキナケス剣や動物文様など,スキタイ文化との共通点も多い。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android