日本大百科全書(ニッポニカ) 「タコノキ」の意味・わかりやすい解説
タコノキ
たこのき / 蛸木
[学] Pandanus boninensis Warb.
タコノキ科(APG分類:タコノキ科)の常緑樹。小笠原(おがさわら)諸島特産で、茎の途中から多数の気根を伸ばし、茎を支える。太い気根がタコの脚(あし)のようにみえるので名がついた。雌雄異株。雌株は長さ約20センチメートルのパイナップル状の果実をつけ、成熟すると橙黄(とうこう)色になり、種子は食用とする。
タコノキ(パンダナス)属はアジア、アフリカ、太平洋諸島の熱帯から亜熱帯に広く分布し、250~650種あるといわれる。見分けがむずかしく、いろいろな種類を総称してタコノキとよぶことが多い。アダンP. odoratissimusはタコノキより葉幅が広く、長さは1.5メートルに達し、縁(へり)と裏面の中央脈に短く鋭い刺(とげ)を密生する。刺のまったくないトゲナシアダンもある。沖縄以南の熱帯アジアに広く分布する。ビョウタコノキ(アカタコノキ)P. utilis Boryはマダガスカル原産。葉は螺旋(らせん)状に美しくつき観賞温室に植えられる。シマタコノキP. veitchii hort. Veitch ex Mast. et Mooreは葉の縁に白斑(はくはん)が入って美しく、小苗を鉢栽培する。刺のない園芸品種もある。ドゥビウスP. dubius K.Spreng.は葉幅が広くて短く、刺は少ない。小鉢づくりにしても草姿がよい。熱帯地方では黄斑が美しく、刺のないサンデリP. sanderi hort. Sander ex M.T.Mast.が庭園でよく栽培される。
本属植物は高温性で、15℃以上が好ましく、一般家庭での栽培はむずかしい。風と塩に強いので、防風用として海岸線によく植えられる。葉は帽子、マットなどを編む材料として用いられる。
[高林成年 2018年10月19日]
文化史
タコノキの類は太平洋上の島々では屋根や壁や床材、また、籠(かご)や帽子に利用され、種子の仁は食用にされる。台湾の蘭嶼(らんしょ)のヤミ族は栽培品種をもち、果肉を果物として食べる。タコノキは気根の状態をタコの足に見立てた命名だが、沖縄ではその1種P. odoratissimus L.f.をアダンとよぶ。アダンの名はフィリピンからマレーシアにかけての呼び名のパンダンpandanの頭子音pが省略された音である。さらに薩摩(さつま)(鹿児島県)方言エランは、藤田安二によるとニコバル諸島のレランleramと関連するといい(『生物科学』第26巻1号)、南方との交流を物語る。平賀源内(ひらがげんない)の『物類品隲(ぶつるいひんしつ)』(1763)の盧会(ろかい)(アロエ)の解説中に、近世琉球より来所のトウアダンの形態に似るとあり、江戸時代、本土にももたらされたことが知れる。
[湯浅浩史 2018年10月19日]