タテゴトアザラシ(英語表記)Phoca groenlandica; harp seal

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タテゴトアザラシ」の意味・わかりやすい解説

タテゴトアザラシ
Phoca groenlandica; harp seal

食肉目鰭脚亜目アザラシ科ゴマフアザラシ属。雄は体長約 1.9m,体重約 135kg,雌は体長約 1.8m,体重約 120kgに達する。出生体長は約 85cm,出生体重は 10kg程度である。体毛は銀白色で,背部中央から尾に向って斜めにV字型を呈する黒色帯があり,種名はこの形状が竪琴に似ていることに由来する。顔面部は黒色のマスクをかぶったようである。出生仔の毛色は純白で生後約3週間で灰色換毛する。体は長く幅が広い。頭部は小さく丸みを帯び,頸部は細く,鼻口部は長く先が少し細い。鼻孔は小さく吻端にありV字状である。耳介はなく,耳孔は眼の後方やや下側に位置し比較的大きい。前肢は短く指間に蹼 (みずかき) があり,後肢は鰭 (ひれ) 状で,四肢には毛が密生する。尾は短い。門歯は上顎6本,下顎4本,犬歯は上顎と下顎に各2本,頬歯は上顎と下顎に各 10本である。3月中旬から下旬に水中で交尾を行い,2月下旬から3月中旬に出産する。幼獣は氷上で群れをなす。繁殖のため,晩冬に氷縁南側に回遊し,夏に北極海域の氷縁北側へ移動する。回遊中は外洋性の魚類甲殻類を,夏は底生魚類を捕食する。分布は広く,北極海,ハドソン湾バフィン島から東はチェリュスキン岬まで生息する。主として氷縁付近に生息するが,夏は氷縁から離れた海域に出現することもある。

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改訂新版 世界大百科事典 「タテゴトアザラシ」の意味・わかりやすい解説

タテゴトアザラシ
harp seal
saddleback seal
Phoca(=Pagophilusgroenlandica

鰭脚(ききやく)目アザラシ科の哺乳類。北大西洋に分布する中型アザラシ。背中に竪琴状の模様があるのでこの名がある。北大西洋の高緯度海域に分布し,グリーンランド周辺,ニューファンドランド,ハドソン湾,バフィン島周辺が分布の中心なので,グリーンランドアザラシGreenland sealとも呼ばれる。夏に北方に,冬に海氷の発達とともに繁殖海域に南下し,春に海氷上で繁殖する。雄,雌とも体長1.8m,体重180kgに達する。体色模様は特徴的で,頭部が黒く,また背部に半円状の黒色バンドが見られる。雌,幼獣には明りょうな模様はない。雄と雌で体色が異なるのは北太平洋のクラカケアザラシと本種のみである。食性は魚食中心で,ニシンタラなどを捕食する。白い毛の新生子を中心に毛皮,脂肪を目的に捕獲活動が行われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タテゴトアザラシ」の意味・わかりやすい解説

タテゴトアザラシ
たてごとあざらし / 竪琴海豹
harp seal
[学] Pagophilus groenlandisus

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚(ききゃく)目アザラシ科に属する海獣。雄の成体の体長約1.8メートル、体重約180キログラムで、雌は雄よりやや小さい。雄の体色は白色ないし淡褐色で、顔面は濃褐色、背部に褐色の模様がある。雌はそれより白っぽい。生まれた子は全身白色の毛で覆われる。北極海から北大西洋の北部に分布し、ときにイギリス、西ヨーロッパに来遊する。現在でも130万~230万頭が生息し、年間約17万頭が捕獲されている。

[西脇昌治]


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世界大百科事典(旧版)内のタテゴトアザラシの言及

【アザラシ(海豹)】より

…南半球では種分化を促す陸地の障壁が北半球ほど複雑でないため種類が少ない。北半球では,北太平洋にクラカケアザラシ(イラスト),アゴヒゲアザラシ,ゴマフアザラシ(イラスト)の3種,北大西洋にハイイロアザラシ(イラスト),ズキンアザラシ,タテゴトアザラシ(イラスト)の3種,両方にワモンアザラシ(イラスト),ゼニガタアザラシ(イラスト)の2種が分布する。北半球の低緯度地方にはモンクアザラシ類3種とキタゾウアザラシが分布し,カスピ海やバイカル湖にもワモンアザラシ類2種が分布する。…

【毛皮】より

…ラコダはオットセイの毛を3mmくらいに刈りこんだもので,あずき色の優雅なつやをもつ。ハープシール(タテゴトアザラシの毛皮)は良質で数量も多く,重要な毛皮の一つ。アザラシの生まれたての幼獣の毛皮はホワイトコート(日本ではフケフケと呼ばれる)といい,白くて長い毛が珍重される。…

※「タテゴトアザラシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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