改訂新版 世界大百科事典 「ディオスクロイ」の意味・わかりやすい解説
ディオスクロイ
Dioskouroi
ギリシア神話の双子の兄弟,カストルKastōrとポリュデウケスPolydeukēs(ラテン語ではポルクスPollux)のこと。しばしば兄弟愛の典型とされる。スパルタ王テュンダレオスTyndareōsの妃レダの子で,ヘレネ,クリュタイムネストラの兄弟。父に関しては,ゼウス(ディオスクロイとは〈ゼウスの息子たち〉の意)とも,テュンダレオスとも,あるいはまた,白鳥の姿に変じたゼウスがレダと交わったあと,レダは夫とも同衾したので,ゼウスの種からはポリュデウケスとヘレネが,テュンダレオスの種からはカストルとクリュタイムネストラが生まれたともされる。この兄弟はイアソンを指揮者とするアルゴ船の遠征(アルゴナウタイ伝説)に参加したあと,叔父アファレウスAphareusの子のイダスIdasとリュンケウスLynkeus兄弟の許嫁であった2人の娘をさらったため,あるいはイダス,リュンケウス兄弟と4人で奪った牛の分配をめぐって争ったため,カストルがイダスに殺された。このとき不死身であったポリュデウケスは,兄弟の死を悲しむあまり,自分もいっしょに死なせてくれるようゼウスに懇願すると,ゼウスは2人に,1日おきに天上と冥府で暮らすことを許したという。また後代の伝承では,2人は天に上って双子座の星になったとされ,嵐の夜,船の帆柱の先端に現れる光(〈セント・エルモの火〉と呼ばれる放電現象)は,船乗りの守護神たる彼らの出現と信じられた。
ローマでは,前496年,ローマ人がラティニ族とレギルス湖畔で戦ったおり,双子神がローマ軍の味方をしたと信じられ,戦闘の最中に,時の独裁官アウルス・ポストゥミウスAulus Postumiusが神殿の奉献を誓った。この神殿はローマ市のフォルムのウェスタ神殿の向いに建造され(3本の柱が現存),双子神はローマ騎士の守護神としてあつくあがめられた。美術作品では,通例,頂に星のついた卵形の冑をかぶり,槍を手にした若い騎士の姿で表現される。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報