250年ころにアレクサンドリアで活躍した後期ヘレニズムの数学者。生涯についてはほとんど知られていない。著作として知られているのは,分数計算を扱った《モリアスティカMoriastica》,内容のよく判明していない《ポリスマタPorismata》,数論についての幾何学的証明を含む《多角形数について》および主著の《アリトメティカArithmetica(数論)》である。ディオファントスの名を不朽のものにしたのはこの主著である。もともとは13巻構成であったと思われるが,ギリシア語原典が残存しているのは初めの6巻のみである。クスター・ブン・ルーカーQusṭā b.Lūqāによる第6,7巻のアラビア語訳写本が発見され,刊行されている(1982)。ディオファントスは《数論》の中で,代数方程式,不等式のさまざまな決定・不定問題を扱い,ギリシアの数論的問題の巧妙な解法を開陳している。とくに,整数を係数にもつ有限個の代数方程式の整数解を求める諸問題に特徴があったため,この種の不定方程式には今日ディオファントス方程式の名が与えられている。彼は,数を単位(1)の集りと定義し,今日の代数学の未知数x,x2,x3などに当たる記号として,それぞれζ,Δy,Kyなどを用いている。《数論》は近世ヨーロッパ数学興隆に大きな役割を演じ,R.ボンベリの《代数学》(1572)やF.ビエトの記号代数学に関する著作《ゼテティカZetetica》(1593)の源流となったほか,フェルマーの数論研究をも触発した。
執筆者:佐々木 力
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生没年不詳。3世紀後半のギリシアの数学者。「代数学の父」といわれ、主としてアレクサンドリアで活躍した。その生涯については、『ギリシア詩華集』に次のような詩が載っている。「ディオファントスは一生の6分の1を少年時代として過ごし、ひげは一生の12分の1より後に伸び、さらに7分の1過ぎて結婚した。結婚後5年して息子が生まれた。息子は父の2分の1生き、父は息子の4年後に死んだ」。彼の年齢をxとすれば、x=1/6x+1/12x+1/7x+5+1/2x+4となって、その一生は84年となる。主著『算数論』Arithmetikaは13巻中6巻が現存し、そこでは主として一次から三次までの定方程式と不定方程式の問題と解法を扱っているが、その計算法や解法の手掛りをつかむ巧妙さは驚くばかりである。また、マイナス、未知数、相等しい、累乗などの記号についても考察、その後の代数学に大きな影響を与えた。
[平田 寛]
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…そこで科学は制度化,専門化され,アテナイ期の哲学的議論を超え出た高度に技術的かつ精密な科学が発達した。このヘレニズム科学を代表する学者としては,数学におけるユークリッド(エウクレイデス),ペルゲのアポロニオス,ディオファントス,物理学におけるアルキメデス,天文学におけるサモスのアリスタルコス,ニカエアのヒッパルコス,プトレマイオス,地理学のエラトステネス,解剖学・生理学におけるヘロフィロス,エラシストラトス,ガレノスらがいる。プトレマイオス1世の下で活躍したユークリッドはいわゆる〈ユークリッド幾何学〉の大成者で,パルメニデス,プラトンに発する厳密な論証の理念をうけつぎ,さらにエウドクソスやテアイテトスTheaitētosの先駆的業績を集大成しながら不朽の名著《ストイケイア》を完成した。…
…当時のギリシアの価値観には,そうした傾向があったのである。 ギリシアには後にも円錐曲線を扱ったペルゲのアポロニオス,正弦の表をつくり惑星の運動を記述したプトレマイオス,記号代数を用い始め,数論の問題を扱ったディオファントスなどの数学者があり,それぞれ後世に影響を及ぼしている。
[代数学の起源――アラビアの数学]
前1世紀に帝政ローマが成立し,ギリシア文化圏も政治的にはその制圧下におかれた。…
…ユークリッドは《ストイケイア》の中で,整数の素因数分解が一意的であることや,素数が無限に存在すること,ユークリッドの互除法と呼ばれる二つの整数の最大公約数を求める方法など,整数の簡単な性質について述べている。3世紀ころには,アレクサンドリアの数学者ディオファントスが不定方程式に関する多くの問題を考察した。例えば, ax2+bx+c=y2 (a,b,cは整数) という形の不定方程式について,いくつかの場合に解を得ている。…
※「ディオファントス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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