改訂新版 世界大百科事典 「トドマツ」の意味・わかりやすい解説
トドマツ (椴松)
Saghalien fir
Abies sachalinensis (Fr.Schm.) Masters
円錐形の整然とした樹冠をなして直立するマツ科モミ属の常緑高木で,エゾマツとともに北海道を代表する針葉樹である。高さ35m,直径1mに達し,幹の樹皮は灰白色を呈し滑らかであるが,老木では割れ目を生じる。樹脂囊が多い。太枝は水平または斜め上方にまっすぐに伸びる。若枝には褐色の短毛を密生する。針葉は長さ15~30mmで螺生(らせい)する。5月ごろ樹冠上部の前年枝上面の葉腋(ようえき)から紫紅色の雌球花を直立し,前年枝上半部の多数の葉腋から雄花が下向きに出る。球果は長さ5~10cm,径2~4cmの楕円状円柱形に育ち,種鱗は先端が肥厚して黒紫色を呈し,その背面に緑色または暗赤紫色の苞鱗を伴う。上下の種鱗の間から苞鱗先端の超出する度合が個体によって異なっている。球果が熟すと,種鱗は各片2個ずつの種子とともに脱落飛散し,あとに直立した軸のみが残る。種子は上端に翼がある。材は淡黄白色で辺材,心材の区別がなく,軽軟であまり耐朽力はない。北海道,南千島,サハリンに分布し,北海道における亜寒帯常緑針葉樹林の優占樹種である。渡島半島南部ではブナと混生し,松前郡はトドマツ林の南限となっている。道内では概して南西部産ほど苞鱗が長く超出して緑色を呈し,北東部産は超出が短く暗赤紫色を呈する傾向がある。分類上は前者を変種アオトドマツvar.mayriana Miyabe et Kudo,後者をアカトドマツvar.sachalinensisと呼ぶが,両者はかなり連続的である。トドマツは北海道における最重要林業樹種で,パルプ・建築・土木材として多量に用いられ,道内の造林面積はカラマツと1,2を争う。しかし,若い造林木は寒風と晩霜の害を受けやすいので,大面積皆伐跡地やくぼ地を避け,あるいは保護樹帯を設けて植栽する必要がある。
近縁のシラビソA.veitchii Lindl.(英名Veitch's silver fir,別名シラベ)は高さ40mに達し,球果は暗青紫色でやや小さく,球果上部の苞鱗のみ超出する。福島県吾妻山以南の関東・中部地方太平洋側と紀伊半島大峰山系および四国脊梁(せきりよう)山系の亜高山帯に分布し,富士山や八ヶ岳には広大な純林もみられる。北八ヶ岳縞枯山では一斉林型の純林が樹齢100年ほどで帯状の集団をなして枯れ,この縞枯れはその中の稚樹の生長に伴って移動する。似た現象は各地のシラビソ林にみられる。オオシラビソA.mariesii Masters(英名Maries' fir,別名アオモリトドマツ)は球果が大きく藍青色で,苞鱗はまったく超出しない。青森県の岩木山,八甲田山から白山および静岡県千頭(せんず)までの亜高山帯に,シラビソよりわずかに高い標高を占めて分布し,奥秩父や赤石山脈には広大な天然林がある。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報