北八甲田連峰と南八甲田連峰からなり、青森市・上北郡・南津軽郡および黒石市にまたがる。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
青森県中央部,十和田湖の北方にそびえる火山群。新第三紀層を基盤とし,大量の石英安山岩質の軽石流を噴出したのち生じたカルデラ上に,輝石安山岩を主に石英安山岩,流紋岩などからなる成層火山と溶岩円頂丘が散在する。山群の中を西流する荒川と東流する蔦(つた)川の谷を境として北八甲田火山群と南八甲田火山群に分けられる。
北八甲田火山群は南北に並ぶ前岳,田茂萢(たもやつ)岳(1324m),赤倉岳(1548m),井戸岳(1537m),大岳(1584m。最高峰),硫黄岳と,東西に並ぶ高田大岳(1552m),小岳,雛岳の諸峰からなる。このうち,赤倉岳,井戸岳,大岳および硫黄岳は各山頂付近に火山活動末期に形成された爆裂火口をもっている。とくに井戸岳の円形火口や赤倉岳の北東に開いた馬蹄形火口はその規模が大きい。北八甲田火山群をとりまく外輪山は,北側から東側にかけて柴森山,石倉山,黒森と半円形をなして連なるが,他の部分ではその後の火山活動による噴出物によっておおわれているため不明瞭である。この北東側の外輪山と中央火口丘群との間には火口原の田代平(たしろたい)があり,起伏の緩やかな草原地帯となっており湿原もある。一方,南八甲田火山群は櫛ヶ峰(1517m。最高峰),乗鞍岳(1450m),赤倉岳,駒ヶ峰,横岳などからなる。南八甲田火山群の最東端に位置する赤倉岳は,東に開いた大きな馬蹄形の爆裂火口をもち,ここからの流下物は蔦川の支流をせき止め,蔦沼をはじめ長沼など多数の湖沼をつくっている。北八甲田の各火山の山容は,緩やかなすそ野にくらべて山頂付近が急峻な釣鐘状になっており,これに対し南八甲田の山々は全般に扁平な形のものが多い。
八甲田山の植生は多様で,標高を増すごとに亜高山帯,高山帯と様相を変化させる。標高400m付近から1000m付近までを占める樹林は主としてブナで,森林資源として開発されており,伐採跡地はおもに放牧地となっている。標高1000mをこえると亜高山帯で,オオシラビソ(アオモリトドマツ)を主とする針葉樹林となり,各所に点在する湿原にはミズバショウ,チングルマなどの湿原植物があり,八甲田の代表的な景観の一つとなっている。標高1400mをこえると高山帯でハイマツの群落地帯となり,ナナカマド,ハクサンシャクナゲなどが混生している。頂上付近はガンコウラン,コケモモなどが群生し,ヒナザクラ,イワカガミ,ミヤマリンドウなど高山植物のお花畑が展開している。
周辺には温泉が多く,最も歴史の古い酸ヶ湯(すかゆ)温泉をはじめ,田代元湯温泉(ボウ硝泉,48~62℃),八甲田温泉(鉄泉,酸性硫黄泉,41~50℃),猿倉温泉(セッコウ硫化水素泉,68℃),蔦温泉などがある。十和田八幡平国立公園に属し,南北両八甲田の境を横断する国道394号線を経由して,青森市から奥入瀬(おいらせ)渓流や十和田湖へ至る道路が整備されている。また田茂萢岳西麓には全長2500mの八甲田ロープウェー(1968完成)がある。1902年1月,八甲田山中を耐寒雪中行軍中199人の死者を出した青森歩兵第5連隊の遭難事件が知られる。
執筆者:水野 裕
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青森県のほぼ中央部にある火山群。北八甲田連峰と南八甲田連峰に分かれる。前者は主峰の大岳(1585メートル)のほか、前岳、田茂萢(たもやち)岳、赤倉岳、井戸岳、小(こ)岳、高田大岳、石倉岳の八峰があり、硫黄(いおう)岳、雛(ひな)岳を含めることもある。南八甲田連峰は主峰の櫛ヶ峰(くしがみね)(1517メートル)のほか、乗鞍(のりくら)岳、駒(こま)ヶ峰、下(した)岳、猿倉岳、赤倉岳からなる。各火山はそれぞれ独立しているが、円錐(えんすい)状で山麓(さんろく)部が緩やかな裾野(すその)を引く山が多い。東に七戸(しちのへ)川、蔦(つた)川(奥入瀬(おいらせ)川)、北に荒川、駒込(こまごめ)川、西に浅瀬石(あせいし)川などが流下し、上流部には渓谷、滝をつくっている。植生は標高400~1000メートルではブナ林、それより上はアオモリトドマツなどの針葉樹林となり、頂上付近はガンコウラン、コケモモなどの高山植物、キンコウカ、ワタスゲなどの湿生植物が群生する。
山麓には田代平(たしろたい)、萱野高原(かやのこうげん)などの高原があり放牧場となっている所もある。酸ヶ湯(すかゆ)、蔦など温泉も多い。両連峰間を青森―十和田(とわだ)間のバス道路が走り、田茂萢岳へはロープウェーが通じる。登山、ハイキング、春スキーなどを楽しむことができる。十和田八幡平(はちまんたい)国立公園域。なお、1902年(明治35)1月23日から25日にかけて、青森歩兵第五連隊第二大隊が八甲田山縦断雪中行軍中、田代平で猛吹雪により210人中199人が凍死する大惨事が起きた。
[横山 弘]
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