改訂新版 世界大百科事典 「トリストラムシャンディ」の意味・わかりやすい解説
トリストラム・シャンディ
The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman
イギリスの小説家L.スターンの小説。1759-67年刊。9巻からなる筋のない奇抜な小説。表題の人物トリストラムの語る物語だが,本人が誕生するのが第3巻。それ以後も彼を中心に物語は展開しない。主たる話題は,父ウォルターとその仲間との知的談論,叔父トービーとその召使トリム伍長との築城術と模擬戦に関する議論,父と母あるいは叔父との間で交わされるトリストラムの養育についての意見などである。その間,出生,鼻,命名にまつわる事件とそれについての意見,兄ボビーの死とその反応,トービーの旧友ル・フィーバーの話などが紹介され,7巻はフランス旅行記,8,9巻にはトービーと近所の後家との色恋沙汰がある。
こうした断片的な事件も明確な日付があり,それなりの一貫性を保っているが,その配列は年代記的ではなく,ジョン・ロックの〈観念連合〉によっている。そのため一見無秩序な世界をつくっている。セルバンテス,モンテーニュ,スウィフトなどの語り口がさまざまにとり入れられ,一方ではラブレーの影響も強い。架空のあるいは現実離れした学問の世界と日常的な現実の世界とがぶつかりあうことで笑いが生じ,そこからスターン特有のユーモアが生まれている。筋が欠落し,脱線の連続であるこの作品は20世紀に再評価され,とくに〈意識の流れ〉の小説との類似点が指摘される。
執筆者:榎本 太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報