文学用語。作中人物の心理の動きをできる限り直接的に表現しようとする実験的な手法をさす。主として20世紀モダニズム文学の作家たちが用いた。名称の由来は、ウィリアム・ジェームズが『心理学原理』(1890)のなかで、人間の意識は断片的な塊(かたまり)をつなぎ合わせたものではなくて、いつも切れ目なしに流れているのだから、「思考、意識、または主観的生命の流れ」とよぶのがいいと主張したことによる。イギリスの女流作家メイ・シンクレアMay Sinclair(1863―1946)が、ドロシー・リチャードソンの連作『巡礼』(1915~1938)を評してこのことばを用いたのが定着した。作中人物の独白体を用いる点では内的独白(internal monologue, monologue intérieur)の一種であるが、思考を劇的にまたは論理的に整理して説明するのではなく、知覚、印象、感情、記憶、連想、知的思考など、意識の働きのいっさいを、生成消滅のままに、論理的な脈絡にとらわれずに表現する。文頭の大文字、句読点などの表記上の約束や、統語法はしばしば無視される。
心理の動きを正確に写実的に表現しようとする点では、リアリズム小説が到達した一つの帰結であるといえるが、ことばによって整理される前の意識の状態を提示しようとする点では、本来表現しえないものを表現する試みであり、リアリズムを超えるものを目ざしている。ことばが意味伝達の役割から解き放たれて、独自の機能を営み始める動機がここに生じる。この手法を用いた代表的な作家には、前記リチャードソンのほか、エドゥワール・デュジャルダンÉdouard Dujardin(1861―1949)、バージニア・ウルフ、ウィリアム・フォークナーらがいるが、もっとも典型的な例としては、ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』(1922)最終章における、人妻モリーの夢うつつの独白をあげることができる。
[高松雄一]
アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズの造語で,意識を静的,要素的なものとする考え方を否定し,意識を〈流れ〉としてとらえるべきことを主張した。19世紀末から20世紀初めにかけて,人間意識の深層に対する興味が強まり,西欧文学の手法としての〈意識の流れ〉が用いられはじめる。ウィリアムの弟ヘンリー・ジェームズの小説には,この手法の片鱗がみとめられる。それは19世紀の心理主義小説とは異質のものである。たとえば恋愛心理の複雑な屈折や陰影をいくら精密に分析・表現しても,それは〈意識の流れ〉の文学にはならない。なぜなら前者は行動の動機としての心理に興味を向けるのに対し,後者は人間の内的世界それ自体の,一見不可解な〈流れ〉を追い続けるからである。1887年にフランスの作家エドワール・デュジャルダンが《月桂樹は切られた》でこの方向を模索しているが,それが完成されるのは1920年代のイギリス小説においてである。ジェームズ・ジョイスの大作《ユリシーズ》(1922)は,ダブリン市内を徘徊する中年のユダヤ人レオポルド・ブルームの1日を追って,彼の心に浮かぶ〈よしなし事〉を書きつづる。それはめんめんたる〈内的独白〉のかたちをとり,〈意識の流れ〉の手法の典型となった。またこれほど徹底していないけれど,バージニア・ウルフの《ダロウェー夫人》(1925),《灯台へ》(1927)などは,この手法の成果である。フォークナーの諸作品においても重要な効果をあげている。
執筆者:川崎 寿彦
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