小アジアの北西端,ダーダネルス海峡に近いヒッサルリクの丘の遺跡。トロイ,トロヤともいう。この小丘は前3000年ころからローマ時代にいたる住居層が重なって,東西約100m,南北約115m,高さ36mほどの遺跡の丘となっていた。伝説上のトロイアの都が実在すると信じたシュリーマンが,1871年はじめて手をつけ,以来4回の発掘によって,宮殿,城壁,財宝を発見し,多くの著書によってその信念を実証した。彼の死後は協力者であったデルプフェルトが1893-94年に精密な発掘調査を行い,トロイア遺跡の各時期,遺構,遺物の科学的解明を行った(《トロヤとイリオン》1902)。さらにアメリカのL.ブレーゲンは1932-38年に,より徹底的な発掘調査をして,いくつかの訂正と付加,各時期の細分を試みた(《トロヤ》4巻,1950-58)。
トロイアの丘には〈市〉とよばれる9層の遺跡が重なっていた。最下層の第1市では土器は手づくりだが,銅器を知り,すでに城壁を築き,城内には建物が集まり,明らかに領主が所在していた。この建物の一つには最も早いメガロン型(前室,炉のある主室からなる細長いプランの家型)がみられる。第2市(前2500-前2200)は初期青銅器時代のエーゲ世界第一の文明と威容とを誇った。拡大された城壁は直径ほぼ100m,大きな荒石をみごとに積み上げ,その外側は深い濠になる。城内高所には整ったメガロン型建物が前庭に面して5戸並んでいた。大メガロンは間口10m,奥行30m,の堂々たるもので,王城の中核にふさわしい。この城主の権勢を誇示するものが,有名な〈プリアモスの財宝〉である。黄金製品では数種の容器,精巧豪華な宝冠や耳飾,胸飾,ピンなどの装身具,貴石製の権威の表象たる斧,多くの青銅製品など幾百点が発見された。土器は手づくりだが,眼,鼻,耳,口などを表した顔壺,両耳杯,種々の壺類など独自の様式をもち,また糸を紡ぐ紡錘車が多数あった。トロイア文化の結集といえるが,分布地域は狭く,ギリシア本土には及ばない。
第2市の壊滅に続く第3,第4,第5市の時期は,トロイア文化のなごりをとどめる貧弱な住居地にすぎない。第6市(前1800-前1300)になってこの丘は再興するが,これまでとは異なってミュケナイ文化圏に属する。その隆盛を城壁が示す。その広さは最大になり,切石を積み上げた堅牢整斉な威容をしめし,所々に壁段をもち,塔をそなえる。しかし高所を占めたにちがいない城塞の中心建物群の跡はわからないし,財宝も発見されない。この市が前1300年ころ地震のために壊滅すると,すぐに第7市Aが再興する。これがトロイア戦争の時代にあたる。この市の寿命は短く,続く第7市Bは弱小であり,その後の第8市,第9市はギリシア人,ローマ人のものとなる。
トロイアほどギリシア伝説に多く語られるものはまれである。しかし,トロイアの都そのものの実在は疑いないが,トロイアとホメロスの詩の関係やトロイア戦争の実態については諸説があり,未確認のままである。
→エーゲ文明
執筆者:村田 数之亮
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…市内の歴史的建造物には1755年の地震後再建されたものが多い。対岸の砂嘴にあるトロイア遺跡はローマ時代の大規模な都市遺構として有名である。【弥永 史郎】。…
…上述した地域にはギリシア文明が続いて興るので〈前ギリシア(プレヘレニック)文明〉と呼ぶこともできるが,この文明はギリシア文明の前段階でも先駆でもなく,独自の性格をもつ。 19世紀末から始まるシュリーマンやA.J.エバンズなど多くの学者の調査と研究により,エーゲ文明の中には,トロイア,キクラデス,ヘラドス,ミノス(ミノア),ミュケナイの諸文明が区別される。なおテッサリアの発達した新石器文化も付随的にふれられる。…
…古典神話学者K.ケレーニイは,このパターンには,ひとたびは中心なる死へと向かい,ついで外周への旅に死よりのよみがえりを求める再生の思想が籠(こ)められているとし,そこに冥界への旅を主題とするダンス・パターンを見た。ヨーロッパ各地に残る迷宮文様の遺跡は,多くトロイアtroiaと呼ばれるが,これがおそらく同名の古代の旋回遊戯に由来するらしいのも,またケレーニイの説を補強するものであろう。 このクレタ型のパターンに見るごとく,古代から中世にかけての迷宮文様は,分れ道や迷い道のない一本道であり,ある図形の内部をまんべんなく回り尽くす構造になっているのが特徴である。…
※「トロイア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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