できるかぎり合理的根拠により新薬を設計しようとすること。新薬の開発を試みるとき,単に試行錯誤をくり返したのではたいへんむだが多い。そこで,合成した化合物が期待どおりの薬理作用をもつように設計(デザイン)することが望まれる。これがドラッグデザインである。薬物は人間を含め生体と相互作用して初めて薬理作用を示すので,ドラッグデザインには有機化学,薬理学および生化学をあわせた深い知識と洞察をもつ必要がある。
薬効が強いというためにはまず,薬物が作用する生体側の特別な部位,すなわち薬物受容体とうまく結合する必要がある。そのためには受容体への適合性のよいように薬物の構造式を設計する必要がある。このほか,薬物が効力を発現するには,受容体との結合だけでなく,薬物の物理化学的性質によって大いに左右される(たとえば全身麻酔薬)。また多くの薬物の作用は吸収や分布によっても支配されている。このような場合,薬物の物理化学的性質を考慮に入れて,化学構造式を設計する必要がある。さらに,生体内で代謝をうけて有効な薬物となるものもある(これがプロドラッグである)。この場合は代謝作用を考慮しなければならない。
上述のことを行うためのおもな手がかりとして,(1)基すなわち分子の小部分の特性を利用するアプローチで,薬物作用における特定の化学的基のもつ意義とか,複数の化学的な位置関係の意義について考える。これらはむしろ薬物受容体が想定される薬物の設計に利用される,(2)分子全体のもつ物理化学的性質を考慮してのアプローチで,とくに脂質や水への溶解性,極性,電子分布などに注目する,などである。
→医薬品
執筆者:高柳 一成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
物質の化学構造に着目、一部をかえることにより、有効な医薬品をつくりだす手法。コンピュータで物質の立体構造を表現することが可能になり、たんぱく工学や合成技術の進歩で実用段階に入った。従来は動植物などの成分を手当り次第に調べ、有効物質をみつけていた。これだと偶然の要素が強く、実用化できる確率は非常に小さいため、開発コストも高くつく。これに対して、ドラッグデザインはウイルスなど病気の原因に直接作用する分子構造を推定して、新薬を一から設計する。開発コストを低くできるほか、自然界にない物質をも医薬品化できる。エイズ薬など欧米ではすでにいくつも成功例が報告されている。
[田辺 功]
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