北ヨーロッパではナナカマドは〈生命の樹〉として尊ばれ,英語rowanはスカンジナビア語のruna(魔よけの意)に由来する。北欧神話によれば,雷神トールの渡河をこの木が助けたとされ,スコットランドではナナカマドから切りだした板を船にはめ込んで水難よけにしたという。ドルイドの神木としても尊ばれたらしく,春の到来を早める力があると信じられた。また戦勝を祈るときには祭壇でこの木が燃やされたという。落雷よけにこの木で作った十字架を煙突に立てたり,〈ナナカマドの日Rowan Tree Day〉(5月3日),すなわち聖十字架発見の記念日には,乳牛の尾にこの十字架を結びつけて乳量が増すことを祈るなどの民俗もある。またイチイとともに墓地に植えられ,死を象徴する木。花言葉は〈思慮分別〉〈解毒力と慈悲〉。 執筆者:荒俣 宏
バラ科の落葉小高木。日本全土の山地にみられ,高さ 10mに達する。樹皮は帯灰暗褐色,細い皮目がある。枝は紫紅色で光沢がある。葉は互生し,9~15の小葉から成る奇数羽状複葉で長さ 20cmほどになる。小葉は長さ3~7cmで鋭尖頭長楕円形,縁に鋸歯がある。5月から7月に,小枝の先端に複散房花序をつけ,多数の白花を咲かせる。花は白色5弁で径7~8mmあり,花弁内面の下部に毛がある。萼は5裂し,おしべは約 20本,めしべの花柱は3~4本ある。果実は径5~6mmの球形で赤く熟する。秋の紅葉と赤い実の美しいところから庭木,生け花の材料にされる。また材が堅く燃えにくく,かまどに七度入れても灰にならないといわれこの名がある。良質の薪炭材として知られる。北海道ではこの木を街路樹としている街も多い。なお,本州中部から西のものでは葉の裏面の脈上に薄茶色の毛が目立つ変種があり,これをサビハナナカマド S. commixta var. rufoferrugineaと呼ぶ。