改訂新版 世界大百科事典 「ナナカマド」の意味・わかりやすい解説
ナナカマド
(Japanese) mountain-ash
(Japanese)rowan
Sorbus commixta Hedl.
山地に生え,紅葉の美しいことで知られるバラ科の落葉小高木。高さは10mに達することもあり,古い樹皮は灰色。葉は羽状複葉で互生。小葉は5~7対,長楕円形で長さ3~10cm,鋸歯がある。花は初夏,枝先に集まって多数咲く。花冠は径0.5~1cm,花弁は5枚で円形,白色,おしべは20本。果実は球形で秋に赤熟。
北海道から九州まで広く分布し,高山帯にも生ずる。また,本州中部以北と北海道の高山帯には,ほかにタカネナナカマドS.sambucifolia Roem.とウラジロナナカマドS.matsumurana Koehneの2種が分布し,本州中部以西にはナンキンナナカマドS.gracilis(Sieb.et Zucc.)C.Kochなどが分布する。材が堅いため,細工用に利用されることがある。なお,〈七度かまどに入れてもなお燃えない〉ということからこの和名がある。若葉や紅葉が美しいため,北地の公園・街路樹にも利用される。
執筆者:山中 二男
伝承,民俗
北ヨーロッパではナナカマドは〈生命の樹〉として尊ばれ,英語rowanはスカンジナビア語のruna(魔よけの意)に由来する。北欧神話によれば,雷神トールの渡河をこの木が助けたとされ,スコットランドではナナカマドから切りだした板を船にはめ込んで水難よけにしたという。ドルイドの神木としても尊ばれたらしく,春の到来を早める力があると信じられた。また戦勝を祈るときには祭壇でこの木が燃やされたという。落雷よけにこの木で作った十字架を煙突に立てたり,〈ナナカマドの日Rowan Tree Day〉(5月3日),すなわち聖十字架発見の記念日には,乳牛の尾にこの十字架を結びつけて乳量が増すことを祈るなどの民俗もある。またイチイとともに墓地に植えられ,死を象徴する木。花言葉は〈思慮分別〉〈解毒力と慈悲〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報