ナバホ族(読み)ナバホぞく(英語表記)Navajo
Navaho

改訂新版 世界大百科事典 「ナバホ族」の意味・わかりやすい解説

ナバホ族 (ナバホぞく)
Navajo
Navaho

アメリカ南西部,現在のアメリカ合衆国アリゾナ州北東部とニューメキシコ州北西部を中心に広がる保留地に居住するアメリカ・インディアン。言語学的にはアサバスカ(ナ・デネ)系言語を話す。もともとカナダ北西部の北方森林地帯に居住した遊動的な採集狩猟民であったが,アパッチ諸族の祖先とともにロッキー山脈東麓沿いに南下し,今から約1000年前に南西部に達した。先住民族のプエブロ諸族や,後にスペイン人,メキシコ人,アメリカ人と接触し,農耕牧畜,金属加工,機織などの技術を採り入れた。長期にわたり植民者と衝突をくり返したことでも知られる。1864年のK.カーソン率いる合衆国陸軍との最後の戦闘の後,サムナー砦(ニューメキシコ州)に強制的に移動させられたが,68年に条約を締結し,現保留地に移った。

 現在,ウィンドー・ロック(アリゾナ州)を首都とするナバホ・ネーションを形成している。彼らのおもな産業は牧畜,農耕であるが,銀細工織物などの工芸品生産も盛んであり,石炭・石油などの地下資源の開発や採掘権の貸与により収入を図っている。また,宗教儀礼の一部としての砂絵が有名である。人口は約16万(1975)で,アングロ・アメリカで最大の人口を有する単一部族である。現在も人口増加がみられ,周辺に住むホピ,プエブロとの土地をめぐる紛争がおこっており,その解決は難航している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナバホ族」の意味・わかりやすい解説

ナバホ族
ナバホぞく
Navaho; Navajo

アメリカのニューメキシコ,アリゾナ,ユタの各州に住むアメリカインディアンの一民族。人口約 10万と推定される。言語はアパッチ族のそれと類似しており,アサバスカン語族に属する。 10~13世紀に北方から移住してきたと考えられる。農業,織物,儀式などの面ではプエブロ族から影響を受けた。 19世紀にメキシコ人から学んだ金属工芸 (特に銀細工) はナバホ絨毯とともに有名。社会は約 60の氏族から成り,母系的な親族組織をもっている。両親の氏族に属する者とは結婚することができない。最近では合衆国の法律のもとでこの慣習は次第に失われつつある。多くが指定居留地に住むが,乾燥地帯のため農業や牧畜に適さないので,地区外に出稼ぎに出る者も多い。

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世界大百科事典(旧版)内のナバホ族の言及

【雨乞い】より

…タバコの煙も類似の原理によるもので,雨雲を象徴している。同じアメリカ・インディアンのナバホ族は,ひでりがひどくなると呪術師を招いて雨乞いの祈願をしてもらう。数家族が灌木の枝でつくった小屋に集まり,呪術師はそこで雨と緑のトウモロコシの畑を象徴した2本の杖をもって祈禱をおこなう。…

【アメリカ・インディアン】より

…とくにヒラ川とソルト川の合流点付近には,数十の大集落が存在し,確認されているだけでも350kmを超す灌漑水路の跡がある。 ナ・デネ系のナバホ族アパッチ族は,スペイン人の進出のころに北方から南下し,この地域に定着した。先住民のプエブロ族やスペイン人の植民者から農耕,牧畜,金属加工などの諸技術をとりいれ,定着生活を送っている。…

【砂絵】より

…北アメリカ南西部地方や大平原地方のインディアンが,宗教・治療儀礼の一部として,聖なる地面に多色の砂を用いて描いた絵。南西部のナバホ族の間でもっとも顕著に発達したが,周辺のプエブロ・インディアンや大平原インディアンの一部も宗教儀礼の折にこれを描く習慣をもつ。ナバホ族のばあい,神聖な色とみなされている白,青,黄,黒,赤の5色の砂が用いられ,宗教的な建物の床に,シャーマンの指揮により儀礼の参加者が絵を手分けして完成する。…

【農耕儀礼】より

…14世紀後半にメキシコ高原に文明を形成したアステカ族は,複雑な神話体系と多彩な農耕儀礼を生みだしたことで知られているが,彼らは毎年,秋の収穫が近づくと,豊穣神・地母神トラソルテオトルの再生の祭りを行い,この神に扮した1人の女性が犠牲にされると,1人の神官がその皮を身にまとい,その腿(もも)の皮を新しく生まれる穀神シンテオトルに扮する青年の頭にかけて,穀物の死と再生の劇を演じた。北アメリカの南西部に住むナバホ族の間では,トウモロコシの種まきに先立って種の祝福の儀礼が行われる。彼らは特別に設けられた小屋に種トウモロコシを持ち寄って積み上げ,男性と女性にみたてたトウモロコシの上に,白と縞(しま)の石をひいた粉を振りかけて,呪術師を中心に祝福の祈禱を行う。…

※「ナバホ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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