ニンフ(その他表記)nymph

翻訳|nymph

デジタル大辞泉 「ニンフ」の意味・読み・例文・類語

ニンフ(nymph)

ギリシャ神話で、川・泉・谷・山・樹木などの精。若く美しい女性で、歌や踊りを好む。
不完全変態をする昆虫幼虫

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精選版 日本国語大辞典 「ニンフ」の意味・読み・例文・類語

ニンフ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] nymph )
  2. ギリシア神話に登場する、山・川・樹木・花・洞穴などの精。若く美しい女の姿で現われ、歌と踊りを好み、予言力をもつといわれる。
    1. [初出の実例]「ブルイッシが描(か)いたニムフの神女の浴泉の図を始め」(出典:恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉二二)
  3. 不完全変態をする昆虫の幼虫。若虫(じゃくちゅう・わかむし)

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改訂新版 世界大百科事典 「ニンフ」の意味・わかりやすい解説

ニンフ
nymph

ギリシア神話で,山・川・泉・樹木やある特定の場所の精。古代ギリシア語ではニュンフェnymphē(普通名詞としては〈花嫁〉〈新婦〉の意)といい,ニンフはその英語形。歌と踊りを好む若く美しい女性で,ホメロス叙事詩ではゼウスの娘とされるが,神と異なって不死ではなく,そのかわりに非常な長命の存在と考えられた。彼女たちは,狩猟の女神アルテミスとともに山野をかけめぐり,酒神ディオニュソスに付き従って踊り狂う女たちの仲間に加わり,牧神パンや山野の精サテュロスたちと戯れる。人間に対しては,庭園や牧場に花を咲かせ,家畜を見張り,狩りの獲物を提供し,泉の水を飲むか浴する者に予言の力を授けたり,病を治してやるなど,おおむね友好的である。しかしときには森の中を通る旅人を怖がらせたり,その姿を見た者にとりついて正気を失わせたり,またアルゴ船乗組員の美少年ヒュラスHylasを泉に引きこんだように,人をさらったり,シチリア島の羊飼いダフニスDaphnisを盲目にしたように,求愛に応じない者に報復するなどの害をなすこともあると信じられた。このため彼女たちは古くからギリシア各地で崇拝の対象となっており,しばしば泉や洞に供物がそなえられた。

 なお,彼女たちにはその住む場所に応じて次のような呼び名がある。(1)ナイアデスNaiades 泉や川のニンフ。ローマ詩人ウェルギリウスによれば,最も美しいのはアイグレAiglē。一説では彼女は美と優雅の女神たちカリテスの母とされる。(2)ドリュアデスDryades 樹木のニンフ。樹木drys(カシの木)とともに生hamaを終えると信じられたところから,ハマドリュアデスHamadryadesとも呼ばれる。オルフェウスの妻となったエウリュディケEurydikē,アポロンの求愛を逃れるべく月桂樹に変身したダフネなど。(3)アルセイデスAlseides 森のニンフ。美少年ナルキッソスに失恋して木霊(こだま)になったエコーが有名。(4)オレイアデスOreiades 山や洞のニンフ。(5)ナパイアデスNapaiades 谷間のニンフ。(6)レイモニアデスLeimōniads 牧場のニンフ。このほか,アケロオス川のニンフのアケロイデスAchelōids,ニュサ山(ディオニュソスの生まれた山)のニンフのニュシアデスNysiadesなどのように,特定の場所,町,国のニンフが多数伝えられており,またオケアノス〈大洋〉の娘たちオケアニデスŌkeanides,海神ネレウスの娘たちネレイデスNērēidesもニンフに数えられることがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニンフ」の意味・わかりやすい解説

ニンフ
にんふ
Nymphe

ギリシア神話の自然界の精。その性質やすみかによって、川や泉の精(ナイアデス)、水の精(ヒアデス)、樫(かし)または木一般の精(ドリアデス)、トネリコの精(メリアイ)、山の精(オレイアデス)、森の精(アルセイデス)、牧場の精(レイモニアデス)などに分けられるが、このほかアケロオス川の精(アケロイデス)、ニサ山の精(ニシアデス)、アレトゥサの泉の精(同名)、ロードス島の精(ロデ)のように、地名と結び付いたものもある。ギリシア語のnymphēが「若妻、若い娘」を意味するように、神話上のニンフはすべて美しい女性であり、神でも人間でもなく、また不老長寿ではあるが不死ではない。民間信仰では、草木の栄えや家畜の繁殖、健康、預言の力などを授けてくれる恵み深い下位神格として、森や祠(ほこら)などに祀(まつ)られていた。

 ニンフたちは狩りの女神アルテミスに従って山野に遊び暮らすが、処女神とは正反対に、恋に対しては非常に積極的で(病理学用語ニンフォマニアnymphomaniaはこれにちなむ)、ゼウスやアポロン、ヘルメスなどの有力な神々の愛を受ける一方、パンやシレノス、サティロスといった好色な牧神たちとも戯れ、人間の美青年にも恋をしかけた。森のニンフのエコー(こだま)はナルキッソスへのかなわぬ恋にやつれ死に、海のニンフのガラテイアは一つ目の巨人ポリフェモスを恋の虜(とりこ)にした。またエケナイスは、誠実を誓ったダフニスがほかの女に誘惑されたことを知って彼の視力を奪い、ヘラクレスの侍童ヒラスはその美しさのために、ペガイの泉のニンフたちによって水の中へ引き込まれた。オルフェウスの妻として名高いエウリディケは、木のニンフである。

 なお、これにあたるラテン語リンパlymphaが「澄んだ水」を意味することから、古人は色のついた血液に対し、透明な体液をリンパ液と名づけた。

[中務哲郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニンフ」の意味・わかりやすい解説

ニンフ
Nymphē; Nymph

ギリシア神話中,山,水,森,木,場所,地方,都市,国などに固有な神的力を擬人化した精で,若い乙女の形をとる女神。ホメロスはゼウスの娘としている。おおむね舞踊と音楽を好み,ディオニュソスと踊り,庭や牧場に花を咲かせ,あるいはアポロンやヘルメスとともに家畜の群れを牧し,また清い泉の主となって病を癒やし,森や山でアルテミスらに従い狩りの成功を助け,歌と予言の力によって人間を力づけたり,サチュロスシレノスパンと愛をかわしたりする。ときに森を通る旅人を驚かせたり,乗移ったり,また人間を恋してその妻や愛人となり,またヒュラスやボルモスのようにさらったり,愛を裏切ったとしてダフニスのように殺したり,仇をなすこともある。代表的なニンフにアルセイデス (森) ,ナパイアイ (谷間) ,ドリュアデス (木) ,オレイアデス (山) ,ナイアデス (泉,河川) らがいる。

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百科事典マイペディア 「ニンフ」の意味・わかりやすい解説

ニンフ

ギリシア神話の妖精。ギリシア語でニュンフェ(複数形ニュンファイnymphai),ニンフはその英語形。山川草木,特定の場所の精で,多くの呼称あり。ナイアデス(泉,川),ドリュアデス(樹木),アルセイデス(森),オケアニデス,ネレイデス(いずれも海)などが代表的。いずれもゼウスの娘たちで,若く美しく歌舞を好むとされ,男性の山野の精たるサテュロス,シレノス,パンや,神々,人間との交渉が数多く伝えられる。エウリュディケダフネエコーなど有名なニンフも少なくない。
→関連項目ナティエ

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世界大百科事典(旧版)内のニンフの言及

【幼虫】より

…昆虫をはじめとした陸上節足動物の幼生の総称。狭義には完全変態昆虫の卵とさなぎの間の時期をさし,不完全変態昆虫の卵と成虫の間の時期は若虫nymphという。英語の対応する語にlarvaがあるが,これはすべての無脊椎動物の幼生および変態をする脊椎動物の成体の前の世代(オタマジャクシなど)の総称であり,幼虫のみをさすのではない。…

※「ニンフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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