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ノンセンス文学 ノンセンスぶんがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ノンセンス文学
ノンセンスぶんがく

最も広義に解釈すれば,言語によって伝達される通常の「センス」 (意味) に「ノン」 (否定) を投げつけるべく書かれた作品は,すべてノンセンス文学だといえる。言い換えれば,読者の既成の秩序や価値の「感覚」 (これも英語では「センス」という) をはぐらかしたり,突きくずしたり,逆転させたりすることをねらった文学である。その意味では,ノンセンスは「幻想」や「グロテスク」と重なるところもあるが,笑いと切り離せない点が違う。その笑いも「ユーモア」とはやや異なって,乾いている。ノンセンス文学の宝庫はイギリスである。とりわけ童謡集『マザー・グースの歌』には,「牝牛が月を飛び越えた」といった超現実的イメージや,「夏の日のスケート」といった論理の倒錯や,「去っていなければまだいるだろう」といっただめ押しの論理など,ノンセンスの純粋形が豊富にある。ノンセンス文学の最大の技法である言葉遊び,特に地口を駆使したのは,L.キャロルである。彼の傑作『ふしぎの国のアリス』 (1865) では,言葉をつくっている意味と音を引きはがして,音に優位を与え,意味を脱臼させるという地口の手法が,読者を意味論的なめまいに陥れ,奇妙な反世界を現出させている。もう1人のノンセンス文学の大家,キャロルの同時代人で詩画集『ノンセンスの絵本』 (46,61,63) の作者 E.リアは,二百余編の五行詩 (リメリック) において,意味の世界から脱落した奇人たちの群像を鮮かに刻みつけた。言語を物質化してみせた彼の『ノンセンス植物図鑑』なども,この種の文学の珍品というべきであろう。そのほか,天才的な「言葉づかい」シェークスピアから,現代文学の極北と称されるジョイスの『フィネガンズ・ウェーク』 (1939) にいたるまで,部分的にノンセンス文学とみなしうる作品は数えきれない。イギリス以外でも,あらゆる国の童謡は必ずノンセンス文学の要素をもっているし,またドイツのクリスチアン・モルゲンシュテルンのようなすぐれたノンセンス詩人は少くない。現代の不条理演劇の元祖イヨネスコの戯曲も,典型的なノンセンス文学にほかならない。言霊 (ことだま) のさきわう日本にも,すでに『万葉集』にみられるノンセンス詩をはじめとして,わらべうた,早口言葉,狂歌,川柳など,豊かな民衆的伝統がある。近年,井上ひさしや筒井康隆などが現れているが,総じてノンセンス作家が少いのは,明治以後の近代文学の特徴かもしれない。

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