ハウサ族(読み)ハウサぞく(その他表記)Hausa

翻訳|Hausa

改訂新版 世界大百科事典 「ハウサ族」の意味・わかりやすい解説

ハウサ族 (ハウサぞく)
Hausa

おもに西アフリカのナイジェリア北西部からニジェール南部にかけて住む一大民族。人口は約1000万で,この地域最大の民族であるが,フルベ(フラニ)族の半数(約250万)が同じ地域に住み,支配階級となっている。この支配階級としてのフルベ族ハウサ語を話し,ハウサ文化に同化している。ハウサ語はアフロ・アジア語族のなかのチャド諸語の一つである。イスラム文化の影響で宗教や技術に関する語彙はアラビア語からの借用が多くみられる。

 ハウサは14世紀までに7~8の小国家がゆるやかな同盟によって連合国家(ハウサ諸国)を形成した。その後,マリ帝国からイスラムの宣教師が入り,ハウサの信仰や慣習に強い影響を及ぼした。しかし今でも小部族マグザワなどのようにイスラム化されていない部族もいる。

 ハウサの生業は集約的農業で,モロコシ,トウモロコシ,シコクビエを中心に多くの作物が輪作される。肥料には牧畜民であるフルベ族の家畜の排泄物を利用する。ハウサの農業は生計を満たす以上の余剰を産出している。また専業ないしは兼業として,屋根ふき,革細工,銀細工,機織を行う。これらの製品は町の定期市場に出荷され,広く取引される。ハウサは都市や町にも定住しているが,その大部分農村に住む。典型的な農家の屋敷は,2~3人の成人男子と彼らの家族を含む。家屋は草ぶきの丸屋根,泥とわらの壁でできている。屋敷の長は中央に約3m四方の四角い家を建てている。出自父系,結婚相手としては近い親族やいとこを好み,一夫多妻婚である。離婚はイスラム法に基づいて行われ,頻繁である。

 ハウサは複合的な文化をもち,その文化は封建的な政治基盤のうえに成立している。連合国家を形成する諸王国の各王は,封土である村々を治める封建領主を多数支配し,領主の代理人が村人から税を徴収する。領主が村人を支配する統治のシステムは,中間の強力な官僚組織によって支えられている。ハウサ社会にはいくつもの階級と役職が存在していて序列化され,精緻な礼儀作法の体系がある。人々は平民,行政官,首長などに序列づけられ,加えて職業の種類や富の大小に応じて権威の度合も異なる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハウサ族」の意味・わかりやすい解説

ハウサ族
ハウサぞく
Hausa

主としてナイジェリア北部に居住する民族。チャド語派のハウサ語を話す。人口は 2000万以上と推定される。古くはサハラ砂漠中央部にいたが,ベルベル人やアラブ人の圧迫で南下し,19世紀にフルベ族に征服された。長いサハラ砂漠縦断の隊商交易の経験から,文化的統合は相当に強く,ヨーロッパの植民地時代以前に,封建制国家を形成し都市を発達させた。詩作や歴史などの多くの文書が残っている。肥料を使ってもろこし類,きびを主食として栽培するが,経済の中心は,皮や金属細工,織物生産などによる特殊職人,商人などの商業におかれ,貝貨が用いられた。社会は著しく階層化され,貴族リニージが重要な地位を占めている。出自は父系で,親族,特にいとこ同士の結婚が好まれる。

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世界大百科事典(旧版)内のハウサ族の言及

【市】より

…アフリカ社会の多くは夫方居住婚であるので,既婚女性は,生まれた村や血縁の人々との邂逅や接触を市でもつのである。また,北部ナイジェリアのハウサ族のように,さまざまな職業と産品があって自給性が高く,市が村落内での自給と交換のためにだけ機能している社会では,村落内の特定の場所で,決められた日に,決められた様式で市が立ち,村落間の交流はあまりみられない。 市が発達し市場原理が作用している社会では,まちの市場が広い地域的市場圏と遠隔地交易の中心となり,経済的機能を果たすとともに,首長や祭祀者,役人が〈ふれ〉を出したり,またうわさや世間話など種々の情報伝達の場であり,社会生活の中心でもある。…

【住居】より

… 最も初源的な形態と思われるのは,木柵や土塀で囲まれた領域にエレメントが点在するもので,この場合,住棟の配列には入口の向きを除いて規則性はない。これは最もルーズな結合のコンパウンドで,定住したトゥアレグ族やハウサ族,フルベ(プール)族などに見られる。住棟は円形で穀倉は壺状となる。…

【ニジェール】より

…【端 信行】
[住民,社会]
 住民の大部分は西部のニジェール川流域と,南部のサヘル地帯に集中している。人口の多い部族をあげると,ハウサ族(54%),ソンガイ族および近縁のジェルマ族Djerma(23%),フルベ(フラニ,プール)族(10%)などで,ほかにトゥアレグ族(3%)もいる。住民の85%がイスラム教徒で,残りのほとんどは部族固有の伝統宗教を信仰している。…

【ハウサ諸国】より

…西アフリカ,ニジェール川の東部に広がるハウサランドHausaland(現在のナイジェリア北部)で,過去多少なりとも運命共同体的な状況に置かれながら興亡した一群のハウサ族の国家。これらの国家は19世紀のフルベ(フラニ)族によるジハード(聖戦)で征服された際,いっさいの記録が灰燼に帰してしまったため,以前の詳細についてははっきりしていない。…

【ビアフラ戦争】より

…西アフリカのナイジェリア連邦共和国で,1967年7月から70年1月まで継続した内戦で,東部のイボ族と北部のハウサ族との間の部族間・地域間対立が根本的原因であった。1966年8月のクーデタで成立したゴウォン国家元首は,各州間の対立を軟化させるため,67年5月,従来の4州制を改めて北部州を6分割,東部州を3分割するなどの12州制への移行を発表した。…

【部族美術】より

…このような金属彫刻は王家の特権としてダホメー,アシャンティ,モノモタパなどの各王国でもつくられた。 近代のアフリカの部族美術は彫刻が圧倒的に優勢で,絵画は少ないが,それでもヌデベレNdebele族,ハウサ族イボ族などが住居や塀に具象的ないし抽象的な壁画を描く。彫刻は木製の仮面や人物像が中心であるが,それらは思春期,農業,司法,祖先崇拝に関する儀式の際に用いられる。…

※「ハウサ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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