ハマボウフウ(読み)はまぼうふう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハマボウフウ」の意味・わかりやすい解説

ハマボウフウ
はまぼうふう / 浜防風
[学] Glehnia littoralis Fr.Schm.

セリ科(APG分類:セリ科)の多年草。葉は1~2回3出複葉で、葉身は濃緑色で厚い(葉の形態については「複葉」の項を参照)。葉柄赤みを帯びる。茎は初夏に約40センチメートルに伸び、複散形花序をつけ、白色の小花が密に開く(花序型については「花序」の項を参照)。根はゴボウ状で、主根から多く分岐し、深く伸びる。東アジアの海岸に分布し、日本各地の海岸の砂浜にも自生する。若芽刺身つまとし、また、おひたしや和(あ)え物、漬物などにする。海岸に生え、野菜のようにして食用とするので、ヤオヤボウフウ(八百屋防風)ともいい、また葉柄が赤いのでサンゴナ(珊瑚菜)の名もある。野生品の利用もあるが、市販されているのは、栽培されたものが多くなっている。

 12~1月、あるいは3~4月に種子を播(ま)き、1夏株を育てる。秋に葉が枯れてから根株を掘り取り、仮植えしておき、11月ころから砂地の温床に植え込み、芽が10センチメートルに伸びたときに光を当て、葉柄の色を出してから収穫する。7~10日ごとに数回収穫できる。

[星川清親 2021年12月14日]

薬用

日本では根を浜防風といい、中国産防風の代用品として漢方治療(感冒などの解熱鎮痛薬)に用いるが、両者は種も薬能も異なっている。ハマボウフウは中国の海岸の砂地にも広く分布しており、その根を中国では北沙参(ほくしゃじん)と称して沙参ツリガネニンジンの根)と同様に肺の熱をとり、鎮咳(ちんがい)、止渇作用があるとしている。これに対し防風は、ボウフウの根からとるもので、感冒のほか、関節痛、筋肉麻痺(まひ)などの治療に用いられる。

[長沢元夫 2021年12月14日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハマボウフウ」の意味・わかりやすい解説

ハマボウフウ (浜防風)
Glehnia littoralis Fr.Schm.

海岸の砂浜に生えるセリ科の多年草。根は太くて長く,大きい株では1m以上に達する。葉は根生して,1~2回3出羽状複葉,小羽片は倒卵状楕円形,質が厚く表面は光沢がある。夏に高さ10~20cmの複散形花序を出し,白い5弁の小さい花を多数つける。花序や花茎には密に白い立毛がある。果実は倒卵形で肥厚し,長さ6~8mm,背面には太い稜があって密に毛があり,熟すとコルク質になって分離し,砂上に散乱する。日本全土,朝鮮,中国,サハリン,ウスリー地方からオホーツク海沿岸に分布する。春に若芽をつんで刺身のつまなどに用い,生で食べる。市場などで販売され,一般に料理にそえて用いられるところから,八百屋防風といわれることもある。根を北沙参(ほくしやじん)といい,咳止めなどに使う。
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百科事典マイペディア 「ハマボウフウ」の意味・わかりやすい解説

ハマボウフウ

セリ科の多年草。日本全土,東アジアの海岸の砂地にはえる。根は黄色で深くのび,茎は短くて,高さ5〜10cm。葉は砂上に広がり,2回3出複葉で,厚く,光沢がある。夏,茎頂に複散形花序を出し,小さな白花を開く。花茎,花柄には白毛が密生。若い葉は葉柄が紫紅色で刺身のつまにされ,漢方ではボウフウ(防風。中国,朝鮮半島に産するセリ科の薬用植物)の代用とされる。
→関連項目海岸植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハマボウフウ」の意味・わかりやすい解説

ハマボウフウ(浜防風)
ハマボウフウ
Glehnia littoralis

セリ科の多年草で,ヤオヤボウフウともいう。東アジアの温帯から亜熱帯の海岸に分布し,日本各地の砂浜に普通にみられる。根は太く,砂中に深く入り,根茎とともに黄色を帯びる。葉は1~2回3出の羽状複葉で,小葉は倒卵状楕円形。質厚く光沢があり,縁に鋸歯があって砂上に広がる。葉柄と茎は赤みを帯びる。夏に,茎端に散形花序をなして白色の小花を密生し,倒卵形の果実を生じる。葉は刺身のつまとして食用とされ,根を乾燥したものは発汗,鎮痛,解熱剤に用いられる。また,正月の屠蘇散 (とそさん) に加える。

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世界大百科事典(旧版)内のハマボウフウの言及

【塩生植物】より

…塩生湿地内の塩類濃度,浸水時間の場所による違いに対応して,異なる塩生植物が分布する。ハマボウは塩生湿地に群落をつくる代表的な例である。気根の発達,胎生的な芽生えなどの特徴を示すマングローブ林は西表島ではよく発達し,6種のマングローブ植物が生育するが,日本における分布の北端にあたる鹿児島県揖宿郡喜入町では規模が小さく,マングローブ植物としてはメヒルギただ1種が生育しているのみである。…

※「ハマボウフウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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