日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハモ」の意味・わかりやすい解説
ハモ
はも / 鱧
pike eels
pike congers
硬骨魚綱ウナギ目ハモ科の魚類の総称、またはそのなかの1種。日本近海に分布するハモ科Muraenesocidaeは、ハモ属Muraenesoxの2種(ハモ、スズハモ)、ハシナガアナゴ属Oxycongerの1種(ハシナガアナゴ)、ワタクズハモ属Gavialicepsの1種(ワタクズハモ)の4種が知られている。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
分類
ハモ属
ハモ属は、吻(ふん)がやや突出し、上下両顎(りょうがく)の歯が数列に並び、その1列の前方のものは犬歯状である。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)の中央列歯も大きな犬歯状となっている。また、前鼻孔(ぜんびこう)は吻端の近くにあり、尾部の長さが吻端から肛門(こうもん)までの距離よりも長いことなどの特徴がある。
和名ハモMuraenesox cinereus(英名daggertooth pike conger)は、福島県以南の太平洋沿岸、青森県以南の日本海沿岸、東シナ海、朝鮮半島、南シナ海、オーストラリア北岸、紅海などインド洋・西太平洋に広く分布する。北海道や東北地方では別種のマアナゴのことをハモとよぶので注意を要する。体はやや側扁(そくへん)する。吻は著しく突出しない。口は大きく、目の後方まで開く。上顎の歯は4~5列で、下顎歯と鋤骨歯は3列に並び、両顎の前端部の歯は肥大する。鋤骨の中央列歯は大きくて、側扁し、前後に小突起をもち、三尖頭(さんせんとう)になる。側線孔数は146~154個で、そのうち肛門上方までに40~47個。背びれは鰓孔(さいこう)の上方から、臀(しり)びれは肛門直後から始まり、後端で尾びれとつながる。肛門上方までの背びれ軟条数は66~78個、脊椎(せきつい)骨数は142~159個。背部は暗褐色~紫褐色で腹部は白色を帯びる。背びれ、臀びれおよび尾びれの縁辺は黒い。胸びれの内側は暗灰色である。産卵は沿岸水域の水深35~60メートルの砂泥底または泥底で行われ、産卵期は紀伊水道では6~7月、周防灘(すおうなだ)では7~9月。孵化仔魚(ふかしぎょ)は全長3.0~3.4ミリメートル。透明なレプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)期を経て成長し、葉形幼生の最大形は約100~115ミリメートルになる。8月下旬~10月に変態し、変態完了期のものは約75ミリメートルに縮小する。変態中期の終わりごろから水底に降下し、水温20℃内外では約15日間で変態を完了する。周防灘にすむハモの耳石(じせき)の鱗紋(りんもん)の調査によって推定された成長状態は、雌では2歳で28.3センチメートル、10歳で99センチメートルに、雄では3歳で26.8センチメートル、9歳で67センチメートルになることがわかった。雌は雄より成長がよい。全長は最大で2.2メートルに達する。岩礁の間や近海の砂底にすみ、甲殻類、魚類、頭足類などを捕食する。夜行性。おもに底引網で漁獲されるが、延縄(はえなわ)、引縄などでもとれる。漁獲量は東シナ海が多い。夏に美味で、関西ではとくに賞味する。小骨(肉間骨)が多く、骨切りや骨抜きをして照焼き、酢の物などに調理する。
近縁種のスズハモは、外見はハモとよく似ており、魚市場などでは一般に両種を区別せずにハモとよんでいる。(詳細は「スズハモ」の項を参照)。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ハシナガアナゴ属
ハシナガアナゴ属は、吻が甚だ長くて先端がとがる。上下両顎の歯は3列で、そのうちの中央列に長い犬歯がまばらにあり、鋤骨の歯が小さい。前鼻孔は吻の中央近くにある。また、尾部の長さは吻端から肛門部までの長さより短いなどの特徴がある。
和名ハシナガアナゴOxyconger leptognathus(英名shorttail pike conger)は前述の属の特徴のほかに、体は一様に暗褐色で、背びれ、尾びれと臀びれ後方の縁は黒色を帯びる。熊野灘、土佐湾、長崎県佐世保(させぼ)、台湾南部、広東(カントン)省の沿岸、オーストラリア東・西岸に分布する。全長は60センチメートルになる。水深250~300メートルの海底付近にすみ、底引網で漁獲され、練り製品の材料にされる。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
ワタクズハモ属
ワタクズハモ属は胸びれがないか、あっても痕跡(こんせき)的で小さい。吻はくちばし状に長く突出する。尾部は著しく細長く伸長し、尾端部が著しく細い。尾部長が体の残りの部分より長い。鋤骨歯はおよそ3列で、中央列歯が大きい。
和名ワタクズハモGavialiceps taiwanensisは体と表皮が柔らかい。頭は小さく、その断面はおよそ三角形。前鼻孔は吻端よりやや後ろに位置する。体は一様に淡褐色で、鰓膜(さいまく)は黒い。土佐湾、沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)、台湾南部などの西太平洋に分布する。全長は約80センチメートルになる。水深300~750メートルにすみ、底引網でまれにとれる。食用にはしない。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]
料理
ハモは関西から西の地方で好まれている魚である。とくに京都の祇園(ぎおん)祭、大阪の天神祭には欠かせないもので、この時季のものを祭りハモともよんでいる。ハモは小骨が多く、しかも肉と皮の間に入り組んで抜き取れないので、かならず骨切りをする。骨切りは、開いた身を、皮を下にしてまな板に置き、ハモ切り包丁で皮を切らないように細かく包丁目を入れる。これを照焼き、てんぷら、すし、酢の物、椀種(わんだね)、鍋物(なべもの)、マツタケの土瓶蒸しなどに用いる。さっと湯通しして冷水に放ったものは京都で切り落とし、大阪ではハモちりとよび、梅肉酢で食べる。ハモの肉はうま味が強いので、上等のかまぼこの味つけ材料にも用いられる。大阪では、かまぼこ用に身をそいだあとのハモの皮を焼いて売っており、これを細く刻み、キュウリと酢の物にしたものはハモざくといって庶民の味の一つとなっている。
[河野友美]
『苗村忠男・高見浩著『鱧料理――京都が育んだ味と技術』(1999・旭屋出版)』