バシュラール
ばしゅらーる
Gaston Bachelard
(1884―1962)
フランスの哲学者。シャンパーニュ地方のバル・シュル・オーブで生まれる。郵便局員、やがて第一次世界大戦に参加、40歳を越えてからディジョン大学哲学教授(1930~1940)を経て、ソルボンヌ大学(パリ大学)教授。
科学史・科学哲学と文芸評論とのつながりに独自の地位を占める。この二つの異質な領域は彼にあっては相補的な緊張を示し、多彩な思想が展開される。前者は『近似的認識試論』(1928)に始まり、『新科学的精神』(1934)、『持続の弁証法』(1935)、『科学的精神の形成』(1938)、『否定の哲学』(1940)、『合理的唯物論』(1953)へと展開。真の合理主義の発展に対して誤った合理化が障害となるため、固定化に打ち勝って創造的な認識へ進むべきことが説かれる。認識の進歩について直線的連続の神話が否定されて、歴史の回帰性が示された。また単純化する哲学のア・プリオリな態度に反対し、メイエルソンの同一化に対して問題の差異化、統一化に対して分散化が主張された。実在とは科学的認識の投企(プロジェ)であるとする科学の技術的性格が強調され、参加(アンガジェ)としての全面的な合理主義、「開かれた哲学」が説かれた。後者、文芸評論については『火の精神分析』(1938)、『ロートレアモン』(1940)より、四元素についての一連の精神分析を経て、『蝋燭(ろうそく)の焔(ほのお)』(1961)に至る著作で、夢想について現象学的記述が深められた。夢想は物質と生命に対する精神による攻撃的な能動性を示し、身体性の媒介によって想像力の創造性を展開するものとされた。
[池長 澄 2015年5月19日]
『渋沢孝輔訳『蝋燭の焔』(1966・現代思潮社)』▽『前田耕作訳『火の精神分析』(1969/改訳版・1999・せりか書房)』▽『中村雄二郎他訳『否定の哲学』(1974・白水社)』▽『及川馥他訳『科学的精神の形成』(1975・国文社/2012・平凡社)』▽『関根克彦訳『新しい科学的精神』(1976・中央公論社/ちくま学芸文庫)』▽『掛下栄一郎訳『持続の弁証法』(1976・国文社)』▽『豊田彰他訳『近似的認識論』(1982・国文社)』▽『平井照敏訳『ロートレアモン』(1984・思潮社)』
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バシュラール
Bachelard, Gaston
[生]1884.6.27. バールシュルオーブ
[没]1962.10.16. パリ
フランスの哲学者。中等教育を受けたのち,独学で数学の学士号をとる。第1次世界大戦後各地のリセ (高等中学校) の教壇に立ち,哲学教授資格,パリ大学文学博士号 (1927) を取得,ディジョン大学哲学教授 (1930~40) を経て,パリ大学科学史科学哲学教授 (1940~54) 。『科学精神の形成』 La Formation de l'esprit scientifique (1938) などを著わしたのち,フロイト,ユングなどの影響のもとに,文学を通じての夢と想像力の探究に転じた。主著に『火の精神分析』 Psychanalyse du feu (1938) ,『水と夢』L'Eau et les rêves (1942) ,『空気と夢想』L'Air et les songes (1943) ,『空間の詩学』 La Poétique de l'espace (1957) ,『ろうそくの炎』 La Flamme d'une chandelle (1961) 。
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バシュラール
フランスの科学哲学者,詩学者。ディジョン,パリの各大学教授を歴任。《科学的精神の形成》(1938年),《否定の哲学》(1940年)などで現代科学の認識論的検討を行い,カンギレム,アルチュセール,フーコーらに受け継がれて構造主義の先駆者と目されるほか,《火の精神分析》(1938年),《空と夢》(1942年)などで果たされた〈物質的想像力〉にもとづくイメージ分析はヌーベル・クリティックなどの批評界にも影響を与えた。
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バシュラール(Gaston Bachelard)
[1884~1962]フランスの科学哲学者・文学批評家。構造主義の先駆者の一人。科学的認識の獲得のために、前科学的な思考との断絶を求めた「認識論的切断」で知られる。のちには詩的想像力の領域に論を広げ、イメージや夢想の世界を考察した。著「否定の哲学」「水と夢」「空間の詩学」など。
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バシュラール
(Gaston Bachelard ガストン━) フランスの科学哲学者。自然科学的な概念の形成や展開を歴史的かつ哲学的に分析した。また、科学とは別に働く想像力の問題を考察し詩的言語の存在論を唱えた。著に「科学的精神の形成」「火の精神分析」など。(一八八四‐一九六二)
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バシュラール【Gaston Bachelard】
1884‐1962
フランスの科学哲学者。構造主義の先駆者の一人として,また,その詩論,イマージュ論でも知られる。1927年《近似的認識にかんする試論》で学位をえた後,ディジョン大学講師,教授をへて,40年ソルボンヌ(パリ大学)に迎えられ,科学史,科学哲学を講ずるとともに,同大学付属の科学史・技術史研究所長を務めた。54年,同大学名誉教授。 20世紀初頭ほぼ4分の1世紀に及んだ〈物理学の革命〉を目のあたりにして,科学をその動的な変化発展の相においてとらえるなかで,この変革期の科学の,その活動に即した意味を,従来の哲学や日常的認識,あるいはまた科学者自身に投げかけることに〈科学の哲学〉の位置を求めた。
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