バーガバタプラーナ(英語表記)Bhāgavata Purāṇa

改訂新版 世界大百科事典 「バーガバタプラーナ」の意味・わかりやすい解説

バーガバタ・プラーナ
Bhāgavata Purāṇa

ヒンドゥー教ビシュヌ派の一派バーガバタ派聖典とされるプラーナで,成立年代は遅いが(10世紀ころ),18大プラーナの中で最も普及し,信仰を集めている。12巻約1800の詩節から成り,文体措辞カービヤ(サンスクリット美文体)文学を模倣している。全巻中第10巻はビシュヌの権化クリシュナと牛飼女(ゴーピー)たちや恋人ラーダーとの愛が詳細に描かれ,神と人間との関係を暗示して人心を把握し,宗派を超えて他のヒンドゥー教徒も広く愛読している。《ビシュヌ・プラーナ》を典拠としていることは明らかであるが,ビシュヌの権化バラーハ(野猪)の神話などはさらに詳しく説かれ,またヨーガについても長い解説を述べるなど,多くの点で前者を凌ぐものがある。このプラーナはインドにおいて広く愛読されたので,プラーナ文献中最初に西欧諸国に翻訳,紹介された。
プラーナ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バーガバタプラーナ」の意味・わかりやすい解説

バーガバタ・プラーナ
ばーがばたぷらーな
Bhāgavata-purāa

ヒンドゥー教の諸種のプラーナ(聖典)文献のなかでとくに有名なものの一つ。10世紀ころに成立。標題は「(ビシュヌ神をバガバット〈神〉として信奉する)バーガバタ派のプラーナ」を意味し、内容上『ビシュヌ・プラーナ』とはとくに密接な関係を有する。プラーナ文献としての成立は遅いが、材料という点ではきわめて古く、叙事詩マハーバーラタ』との共通部分などももつ。本書は12巻1万8000詩節からなる。

 その内容は、ビシュヌの化身(けしん)、宇宙と人間の創造・起源、人間の目的、サーンキヤ学派の開祖カピラの伝記マヌの降下とその子孫、世界の構成、世界の終末などであるが、とくにクリシュナの生涯を描く第10巻は人気があり、古来親しまれてきたものである。『ビシュヌ・プラーナ』に依存するところが大きいとはいえ、言語・文体・韻律などの点で、他のプラーナにはない統一性を示し、文学的に高い評価を得ている。また、本書はとくにバクティ(神との合一)信仰の高揚に貢献した書物として重要性を有する。

[矢島道彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バーガバタプラーナ」の意味・わかりやすい解説

バーガバタ・プラーナ
Bhāgavata-Purāṇa

インドのプラーナ聖典の一つ。成立年代に関しては諸説があり,内容のうえでも新旧の層があり確定的ではないが,およそ 10世紀の頃であると推定されている。全体は 12編に分れ,宇宙成立論,王統の系譜,神話,伝説をも含んでおり,ヒンドゥー教の一派ビシュヌ派のうち,特にバーガバタ派において重要視される。また,インドの思想家たちもしばしばこの文献から引用しており,さらにネパールでも重んじられている。

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世界大百科事典(旧版)内のバーガバタプラーナの言及

【ビシュヌ派】より

…この派の存在は,前5~前4世紀以降の文献などによって確かめられるが,その教義がまとまった形をとったのは,叙事詩《マハーバーラタ》の一部に組み込まれている《バガバッドギーター》においてである。また,この派に関連の深い文献としては,《マハーバーラタ》の付編として扱われている《ハリバンシャ》,および《ビシュヌ・プラーナ》《バーガバタ・プラーナ》などのプラーナなどがある。この派の神学はベーダーンタ派の哲学に基礎づけられることが多く,その神学別に,さらにマドバ派,ビシュヌスバーミン派,ニンバールカ派,バッラバ派,チャイタニヤ派などの支派が分岐した。…

【ヒンドゥー教】より

…宗派的色彩が濃厚で,だいたいビシュヌ派か,シバ派のいずれかに属している。18の大プラーナと18の副プラーナとが現存しているが,なかでも《ビシュヌ・プラーナ》と《バーガバタ・プラーナ》とがとくに尊重されている。(3)法典 法典中の白眉といわれる《マヌ法典》をはじめ,ヒンドゥー教徒の日常の行動を規定する多数の法典がある。…

※「バーガバタプラーナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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