翻訳|paranoia
偏執病、妄想症ともいわれ、頑固な妄想のみをもち続けている状態で、その際に妄想の点を除いた考え方や行動は首尾一貫しているものである。
幻覚、とくに幻聴は伴わず、中年以降に徐々に発症し、男性に多い。妄想の内容は、高貴な出であると確信する血統妄想、発明妄想、宗教妄想などの誇大的内容のものをはじめ、自分の地位・財産・生命を脅かされるという被害(迫害)妄想、連れ合いの不貞を確信する嫉妬(しっと)妄想、不利益を被ったと確信して権利の回復のための闘争を徹底的に行う好訴妄想、身体的な異常を確信している心気妄想などがある。一般には、自我感情が高揚して持続的な強さや刺激性を示している。
パラノイアを独立疾患とみる立場と、統合失調症の一類型とみる立場、あるいは一定の素質と生活史や状況から理解できるという立場などがあって、今日なお一定した見解はない。
なお、パラフレニーparaphreniaは妄想だけでなく幻覚も伴うもので、人格の崩れの比較的少ないものをいい、多くは統合失調症に含まれている。
[保崎秀夫]
『保崎秀夫著『幻覚』(1999・ライフサイエンス)』
精神障害のうち,体系的な妄想観念で終始する病態で,それゆえ〈妄想症〉と訳される(以前は〈偏執病〉の語も用いられた)。ただし,語源的には,パラpara(錯誤)+ヌースnous(精神)で,古代ギリシアでは狂気一般を指す言葉として用いられた。18世紀後半には体系的妄想を伴うすべての精神障害がパラノイアに含められたが,その後,概念はしだいに狭まって,クレペリンにいたり〈内的原因から発生し,思考,意志,行動の秩序と明晰さが完全に保たれたまま,徐々に発展する揺るぎない妄想体系〉と定義される。妄想の主題は血統,発明,宗教,好訴,恋愛,嫉妬,心気,迫害などで,40歳以後の,とくに男性に多いとされる。しかし,この規定にかなうケースは少なく,ガウプの観察した有名な〈教頭ワーグナー〉(1914)などがその典型として挙げられるが,それ以後,日本をふくめて世界的にほとんど報告例を見ない。それにもかかわらず,パラノイアはかつての人間的狂気の典型として今なお精神医学のなかで特異な輝きを失っていない。
執筆者:宮本 忠雄
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