翻訳|paranoia
精神障害のうち,体系的な妄想観念で終始する病態で,それゆえ〈妄想症〉と訳される(以前は〈偏執病〉の語も用いられた)。ただし,語源的には,パラpara(錯誤)+ヌースnous(精神)で,古代ギリシアでは狂気一般を指す言葉として用いられた。18世紀後半には体系的妄想を伴うすべての精神障害がパラノイアに含められたが,その後,概念はしだいに狭まって,クレペリンにいたり〈内的原因から発生し,思考,意志,行動の秩序と明晰さが完全に保たれたまま,徐々に発展する揺るぎない妄想体系〉と定義される。妄想の主題は血統,発明,宗教,好訴,恋愛,嫉妬,心気,迫害などで,40歳以後の,とくに男性に多いとされる。しかし,この規定にかなうケースは少なく,ガウプの観察した有名な〈教頭ワーグナー〉(1914)などがその典型として挙げられるが,それ以後,日本をふくめて世界的にほとんど報告例を見ない。それにもかかわらず,パラノイアはかつての人間的狂気の典型として今なお精神医学のなかで特異な輝きを失っていない。
執筆者:宮本 忠雄
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