ユリ科ヒアシンス属の秋植球根(鱗茎)植物。ヒヤシンスともいう。彩りもあでやかに,甘くただようヒアシンスの香りは春の象徴である。地中海沿岸原産で16世紀にオランダに入り園芸化された。日本には1863年(文久3)に渡来した。当時はヒアシントと呼び,明治になって英名の当て字として飛信子,風信子などと書かれたこともある。葉は7~8枚前後が根生し,花茎は葉よりも高く20~30cmになり,一重または八重の花が多数総状の花房になって咲き,花色も,赤,桃,白,紫,青,黄と豊富である。園芸品種には2系統がある。ローマン・ヒアシンスvar.provincialis Jord.は,花茎は細く1球から数本出て,小輪で花弁は反転し,花づきが粗である。しかし群植すると美しく,また性質は強くてよく繁殖する。ダッチ・ヒアシンスvar.orientalisはオランダで古くから改良されたもので,花茎が太く大きくて,ぎっしりと花をつけみごとなものである。一般に栽培されている品種はこの系統が多い。しかし自然分球や子球ができにくく,繁殖しにくいので,ノッチング,スクーピングなどの人為的な方法で繁殖をしている。ヒアシンスの代表品種には,マリー(紫花),オスタラ(青),デルフト・ブルー(青),ジャン・ボス(赤),アムステルダム(赤),レディー・ダービー(桃),アンネ・マリー(桃),リンノーセンス(白),シティ・オブ・ハーレム(黄)などがある。
日当りと水はけのよい場所に10月に植える。砂土か砂質壌土が最適で,よく腐熟した堆肥やカリ分の多い草木灰などを多用するとよい。間隔は15cmぐらいで,覆土は10~12cm。球根は2~3年掘り上げなくても花が咲くが,一般には茎葉が黄変したら,掘り上げて陰干しし,涼しい場所に貯蔵する。ヒアシンスの水栽培はだれでも容易にできる。花壇植えよりやや遅く,11~12月に始める。水は最初球底すれすれに入れ,根が伸びだしたら水位を少し下げ,1週間に1回水かえをする。根が十分伸びるまでは容器を暗くし,水温10℃前後の涼しい所に置く。根が伸びてきたら暖かい日当りのよい場所に出すと地植えよりも1ヵ月以上も早く開花する。花は香料の原料とされ,6000kgの花から1kgの精油が採取される。
ヒアシンス属Hyacinthusは,アフリカから地中海沿岸や西アジアに30種以上が分布している。ヒアシンス属とムスカリ属はごく近縁で,ときには混同されることもあるが,ヒアシンス属の種は花の先端部が広がり,ムスカリ属のようにつぼまることはない。栽培されるヒアシンスはヒアシンス・オリエンタリスH.orientalis L.から改良されたものであるが,ほかにも数種が栽植されている。
執筆者:水野 嘉孝
ヒアシンスの名称はギリシア神話に出てくる美少年ヒュアキントスにちなむ。ヒュアキントスはスパルタのアミュクライ市で生まれたが,その美しさのゆえにアポロン神に愛され,いっしょに円盤投げに興じていたとき,アポロンの投げた円盤があやまって頭にあたり,落命した。しかしそのときに流れた少年の血から赤い色の花が生え出したので,その花もまたヒュアキントスといわれた。ただし,ギリシア時代にそう名づけられた花と現在のヒアシンスとが同一であるという保証はない。ヒュアキントスの死後,スパルタでは彼の死を記念するために毎年初夏にヒュアキンティアという祭りが行われた。この祭りは,現実的には多年生の球根植物であるヒアシンスが,初夏に花を咲かせてその後すぐに地上部分を枯死させ,来年に備えるという植物学上の事実を象徴的に演じたものであり,そこからヨーロッパ古代世界における死と復活の哲学の存在をくみとることが可能である。
執筆者:山下 正男
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…【湊 秀雄】
[宝石]
ジルコンは屈折率が高く,光輝も強いため,無色透明のものは宝石の中で最もダイヤモンドに似ている。赤みのあるものをヒアシンスhyacinthと称するが,和名の風信子石はヒアシンスに対する当て字である(ヒアシンスとは古くは青色の宝石(おそらくサファイア)を意味した言葉)。ジルコンの名は,アラビア語のzerquin(朱の意),ペルシア語のzargun(金色の意),あるいはフランス語のjargon(黄色い下等なダイヤモンドをいう)が何らかの関連をもつとされるが定かではない。…
…今のサファイアは透明で,彫り刻むことも可能なので,これはラピスラズリだと考えなければつじつまが合わないのだ。それでは古代人は今のサファイアを知らなかったのかというと,これについては何とも断言しがたく,たぶん古代人はアメシストあるいはヒアシンスの名でこれを呼んでいたのではないかと思われる。ヨーロッパのシンボリズムでは,サファイアはまず第一に空の青をあらわしている。…
…一説では,少年の愛をアポロンと競って敗れたゼフュロスZephyros(〈西風〉)が,意趣返しに風をおこして円盤の方向をそらしたためともいう。このとき,大地をぬらした少年の血から,花弁にAI AI(ああ!)の文字をつけた花ヒアシンス(実際にはアイリスの一種がそのような花弁をもつ)が生じたと伝えられる。特異な接尾辞(‐nth‐)をもつヒュアキントスの名は,本来ギリシア先住民族のもので,おそらく彼は死んでよみがえる穀物の精であったと考えられるが,その崇拝がのちに到来したアポロンにとって代わられた事実の説明として,上記の神話が生じたのであろう。…
※「ヒアシンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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