身分階層制(読み)みぶんかいそうせい

改訂新版 世界大百科事典 「身分階層制」の意味・わかりやすい解説

身分階層制 (みぶんかいそうせい)

身分尺度として人あるいは家の社会的地位を構断的な階層によって区別する社会制度あるいはその組織原理のこと。しばしばヒエラルヒーHierarchieの訳語としても用いられるが,ヒエラルヒーがピラミッド型に組織された人あるいはそれに準じた対象の上下序列支配従属)関係の総体を示すのに対して,身分階層制は構断的な層が形成されていることに力点が置かれており,両者はこの点で区別される。

 封建社会や第2次大戦前の日本社会では,個人の社会的地位(身分)がその個人の属する家の価値によって決定される場合が多いので,身分階層も家の階層,すなわち家格の横断的階層として理解されることが多い。このような身分階層制を家格制ともいう。

 身分階層制の身分とは,各階層における人(家)の地位がそれぞれの階層に特有な特権や義務や生活機会と結びつき,かつ多かれ少なかれ固定的--その極端の場合には世襲的--なものであることを意味している。このような身分を尺度とした階層は,多くの場合,土地所有や家系家筋(いえすじ))に基礎づけられており,しばしばその階層に特有な生活様式(衣食住)や行動様式(言語,通婚など)を伴っていた。とくに上級の階層では,その階層に固有な政治的,社会的,経済的,宗教的特権が付与されている場合が多い。このような身分階層制は,社会のさまざまなレベルで形成される。

 日本の村落社会においては,身分階層制の様相複雑をきわめ,地域差もみられた(〈〉の項の[日本]を参照)。まず,同族的系譜関係や親分子分関係(擬制的親子関係)に基づいた身分階層制の形成がある。たとえば,同族集団では,それを構成する家々が本家から分岐した年代の古さや本家との出自上の関係(直接の分家であるとか孫分家であるとかあるいは奉公人分家であるとか)によって格づけされ,階層化されている。このことは親分子分関係に基づく身分階層も同じである。この種の身分階層制は,同時にヒエラルヒー的社会構造を伴っており,戦前の日本社会における地主小作という経済的階級関係を支える支配の道具でもあった。

 また,村落社会には支配権力によって人為的に設定された身分階層制も形成された。(1)近世における役家=本百姓体制は,夫役・年貢の公的負担者を本百姓として位置づけ,この本百姓のもとに従属農民(名子,被官,家抱,抱百姓,柄在家などその呼び方はさまざまである)の階層が設けられた。これは,支配権力が本百姓を村落の公式の構成員として承認し,その特権や義務を統治目標に従って規定したものである。(2)同じ本百姓であっても,侍分と仲間方,長百姓平百姓脇百姓),本役と半役のように,上級の本百姓層と下級の本百姓層を身分的に区別し階層化した地方もあった。これは,中世末の土豪・地侍の系譜を引く家や草分けの家など一定の家筋にあたる有力農民層(近世後期になっては石高の大きい家)が村落における政治的,経済的,社会的,宗教的特権をみずからの身分に固定化し,そのような村落の内部秩序を支配権力が承認したものである。(3)さらに支配権力はある一定の家を郷士身分に取り立てることにより,上級の本百姓層=村役人層を超えた身分(家格)を村落のなかに作り上げていったのである。

 このように支配権力によって人為的に設定された身分階層制であっても,村落の内部秩序と無関係に存在することはできなかった。すなわち,村落の内部秩序自体の階層分化が進んでいる地方では,支配権力によって設定された身分階層制がそれを補強・強化する役割を果たすであろうし,このような階層分化が未成熟な村落では人為的に身分階層制秩序を作り出していくこともあるだろう。もっとも村落の内部秩序において身分階層制が未成熟であるとき,とくに村落の基層において年齢階梯制的な社会構造が形づくられているときは,たとえ人為的に身分階層制が作り出されたとしても,それは村落の表層を浅くおおうにすぎなかったであろう。

 幕藩体制下の上記のような身分階層制は,明治国家のもとでは法制的には解消されるとしても,現実には村落社会の内部秩序としては維持された。すなわち,明治国家のもとでの身分階層制は,地主・小作関係が広範に形成されたという事実を背景として,その地主支配の槓桿(こうかん)としての役割を果たしたのである。また,明治国家も,このような地主による村落支配を容認しながら,他方では身分階層制を正当化する観念を家族制度や儒教イデオロギーを通じて育成・強化した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の身分階層制の言及

【ヒエラルヒー】より

…一定の価値原理にもとづき,または一定の職能体系のなかで,人びとやこれに準じた対象が上下の序列関係に位置づけられ,ピラミッド型に組織された場合,この組織原理および実際に形成された組織体のことをいう。階統制,位階制,身分階層制などと訳されることが多い。たとえば天国の天使たちの間で序列上の地位が3段階に分かれるように,地上の世界で聖職者たちも,カトリックでは司教・司祭・助祭と,東方正教では主教・司祭・輔祭というように序列上の地位が分かれている。…

※「身分階層制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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