ビニロンは日本で開発され,おもに製造されている合成繊維である。1939年に京都大学の桜田一郎によってポリビニルアルコール繊維の紡糸法が発表され,数ヵ月後に鐘淵紡績会社(現,鐘紡)の矢沢将英を中心とするグループも同じ結果を発表した。この繊維を企業化するのに多大の研究費を費やし,成功を収めたのは倉敷絹織会社(現,クラレ)である。ビニロンの生産は1952年3000tからスタートし,60年2万3000tへ増加した。日本では70年に7万4000t製造されたのがピークで,その後しだいに生産量が減少して,82年には3万6000tつくられた。1965年中国へ年産1万4000tのプラントが輸出された。
ビニロンはポリビニルアルコール(ポバール)をホルムアルデヒドと反応させることにより,水に不溶の高分子化合物へ変化させたものである。ポリビニルアルコールは,ポリ酢酸ビニルのアルカリケン化でつくられる。
その原料の酢酸ビニルは,カルシウムカーバイドから合成されるアセチレンと酢酸との反応によって得られる。日本には石灰(炭酸カルシウム)が大量に存在するので,この石灰から得られるカルシウムカーバイドと石炭からのコークス,そしてそれから導かれるビニロンは最も日本向きの化学繊維と考えられた。しかしながら,石油化学の発達によりエチレンを原料とする新合成法が見いだされ,かなりの量の酢酸ビニルがこれでつくられている。
ポリビニルアルコールは熱水に溶かして15%の溶液にされる。この溶液を硫酸ナトリウムを含む凝固水溶中に押し出し湿式紡糸する。できた繊維は次に熱処理とホルマリン処理によって水不溶性にされる。洗浄,オイル処理後乾燥して完成する。ステープル90%,フィラメント10%くらいの割合であったが,近年ステープルの割合が約80%に減少した。アメリカで製造されているビニロンはバイナルVinalと呼ばれ,半溶融法で紡糸が行われている強度のより大きい繊維もある。
ビニロンの比重は1.26と軽く,羊毛に近い。繊維をつくる際の延伸処理に性質は大きく依存するが,引張強さは3.5~6.5gf/デニールであり,伸びは15~30%である。強度が大きいと伸びは低くなる。ポリエステルなどと違い,湿強度は乾強度の75%である。ビニロンは水酸基を分子内にもつので,吸水率は5%で,これは他のビニル系繊維に比べると高い。酸,アルカリに対する安定性はかなり高く,20℃では20%硫酸に耐え,沸騰希苛性ソーダには侵されない。ビニロンはナイロンの溶媒であるフェノール,クレゾールおよびギ酸に可溶である。海水に漬けても土中に埋めてもほとんど侵されない。
化学的安定性と耐水性に優れているので,学生服,レインコート,傘,漁網,外科用縫合糸に用いられる。漁網,タイヤコード,防水布用にはフィラメント(長繊維)が使われるが,相対的にこの割合が増加しているのは衣料用に使われるステープルが減っているからである。ただ55%ビニロンステープル/45%綿の混紡繊維は美しく海島綿に似ている。内張り,ソックス,帽子,手袋,工業ろ(濾)布などにも使用される。ビニロンにつくる前のポリビニルアルコールから紡糸条件を適当に選んでつくられる水溶性繊維は,寸法安定性に優れ,熱水に可溶なので,レース用基布,変り織用,飾糸,製織補助(連続的に編んだ靴下の分離)などの特殊な目的に使われるなど,用途は広がっている。
執筆者:瓜生 敏之
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ポリビニルアルコール(略号PVA)を原料として得られた合成繊維に与えられた一般名称。1939年(昭和14)に京都大学の桜田一郎らによって発明されたもので、1950年に当時の倉敷レイヨン(現クラレ)から市販された。
PVAはポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる水溶性高分子である。PVAを水に溶解し、硫酸ナトリウムの濃厚水溶液中にノズルから吐き出させ、適当な緊張延伸をかけながら巻き取る。このままの繊維は水に可溶であるから、まず繊維を130~200℃で熱処理してPVA繊維の結晶性を向上させ、次に酸の存在下、ホルムアルデヒドでホルマール化する。このホルマール化によって繊維の耐水性が向上し実用的な合成繊維ビニロンになる。
性質は、繊維の高分子中にヒドロキシ基を残しているために、他の合成繊維に比べて親水性が高く吸湿性が大きい。強度はナイロンやポリエステルに劣らず、耐摩擦性、耐久性に優れているが、アイロンによるセット性は低い。用途は、この特徴を生かして作業服、学生服、漁網、ロープなどに用いられている。
[垣内 弘]
『秋浜繁幸著『繊維補強コンクリート――新素材繊維を中心に』(1992・鹿島出版会)』▽『井上太郎著『へこたれない理想主義者 大原総一郎』(1993・講談社)』
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ポリ(ビニルアルコール)(PVA)を湿式あるいは乾式紡糸で繊維とし,アルデヒドでアセタール化した合成繊維.
アルデヒドとしては,主としてホルムアルデヒド(R = H)が用いられる.アセタール化の目的は,分子中のOH基を減少(20~30%)させて繊維の耐熱水性を向上させることにある.衣料用に生産されているビニロンは,合成繊維中で最大の吸湿性と保温力があり,もっとも綿に似た感触をもつ.比重が小さく,レーヨン,アセテート,毛,綿,絹などより軽く,大きな強度を有する.とくに耐摩耗性にすぐれているので,作業服などに好適である.[CAS 9002-89-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域遺産」事典 日本の地域遺産について 情報
… ハイバルク・アクリル繊維 高度に延伸したアクリルと未延伸アクリルを混ぜて紡いだ糸を湯につけて,延伸アクリルだけを収縮させて作ったかさ高い糸であり,セーター用に好まれる。
[ポリビニルアルコール系]
ビニロンVinylon(商標)は日本で開発された繊維である。1939年に京都大学の桜田一郎らにより発明された。…
… ハイバルク・アクリル繊維 高度に延伸したアクリルと未延伸アクリルを混ぜて紡いだ糸を湯につけて,延伸アクリルだけを収縮させて作ったかさ高い糸であり,セーター用に好まれる。
[ポリビニルアルコール系]
ビニロンVinylon(商標)は日本で開発された繊維である。1939年に京都大学の桜田一郎らにより発明された。…
…53年通産省で〈酢酸繊維工業育成対策〉を決定し,アセテート生産に助成措置がとられ,業界の努力もあって生産は順調に発展した。合成繊維に関しては,日本では戦前からナイロン,ビニロンを中心に研究開発が進められていたが,欧米に比べるとかなり遅れていた。このため,政府は1949年にビニロンでは倉敷レイヨン,ナイロンでは東洋レーヨンを育成企業に指定し,金融税制面で優遇措置を講じた。…
※「ビニロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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