改訂新版 世界大百科事典 「ビロード」の意味・わかりやすい解説
ビロード
輪奈(わな)織の一種で,ベルベットvelvetに同じ。天鵞絨の字を当てる。語源はポルトガル語のveludoにあるといわれ,日本には16世紀ころスペイン,ポルトガルの南蛮船によって舶載された。その遺例として米沢・上杉神社の上杉謙信所用と伝える緋地花唐文様のみごとなビロードのマントがある。日本では京都において織製されはじめたのは,《本朝世事談綺》によると正保・慶安(1644-52)のころ,《西陣天狗筆記》によると元禄(1688-1704)のころと記されており,いずれか判然としないが,江戸時代前期にはその織法が試みられたものと思われる。経糸に地経(じだて)と毛経(ビロード独得の毛羽(けば)となる)とを併用し,織製過程で,地緯(じぬき)糸を2越から3越織り込むごとに毛経を引き上げ,緯糸のかわりに針金を織り入れる。織製後に針金でもち上げられている経糸の上部を,緯にそってナイフで切断して毛羽だたせると,ビロード独得の柔らかな質感を生じる。また針金を抜きとってそのままループ状に残すと,いわゆる〈輪奈天〉になる。紋ビロードは,この毛切と輪奈の部分を使いわけることによって文様をあらわしたものである。毛経,地経,緯糸のすべてに絹を用いたものを最も上質とするが,一般には毛経にのみ絹を用い,帛面にあらわれない地経および緯糸には綿糸を使用したものが多い。地組織は平織が多いが,綾織や繻子(しゆす)織のものもある。以上を基本として各種のビロードがつくられるが,特に緯糸に金糸と彩糸を織り交えた紋ビロードは〈金華山〉と称し,高級帯地,装飾布として珍重された。またヨーロッパでは中世より最も高価な織物として,教会の祭壇用の掛布や司教の祭服,王侯貴族の衣料として用いられてきた。特に14~16世紀にかけてはイタリアのフィレンツェが紋ビロードの生産地として名高く,ベルベットの名称も,その生産と普及に貢献したベルティ一族の名から出たものであるといわれている。
執筆者:小笠原 小枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報