日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビロード」の意味・わかりやすい解説
ビロード
びろーど
天鵞絨とも書き一名ベルベットという。添毛(てんもう)織物の一つで、織面に輪奈(わな)を出し、ときにはそれを切断して羽毛のようになった織物である。ビロードとは、ポルトガル語のベルードvelludo、スペイン語のベルードvelludeの転訛(てんか)した語といわれている。また天鵞絨の文字は、白い天の鳥という意味をもち、その品質をよく表している。
ビロードの発祥地はよくわからないが、中世においてすでに地中海沿岸で生産されていた。イタリアではフィレンツェ、ミラノ、ジェノバなどの諸都市において生産され、とくにフィレンツェのウエルテ一家は著名であった。またジェノバは16、7世紀にとくに興隆した土地で、フランスやイギリス、その他の国々へ盛んに輸出されていた。フランスのリヨンの生産は1480年以後といわれる。とくにビロードのもつ柔軟な手ざわり、深みのある色調が喜ばれ、ヨーロッパ諸国の帝王をはじめ、紳士淑女が好んで用いてきたものであった。日本へビロードが輸入されたのは、天文(てんぶん)年間(1532~55)にポルトガル商船がもたらしたものであるが、慶安(けいあん)年間(1648~52)になってオランダ製品を模して織り始めた。そのとき製織技法がわからず、たまたまビロードの中に輪奈をつくるための銅線が残されていたので、これをもとにして製法を考案したといわれる。つまり輪奈の有線ビロードであり、針金を横に織り込んで輪奈をつくり、その輪奈の先を切って毛羽を立てたもので、針金の寸法によって毛羽の長短ができるわけである。綿ビロードの生産は、江戸末期から始まり、コール天は1894年(明治27)に至って生産開始をみるに至り、別珍(べっちん)は大正時代の初めから始まった。
ビロードを大別すると、経毛(たてげ)ビロードと緯(よこ)毛ビロードに分けられるが、日本では経毛のものがほとんどで、これをビロードと総称しており、緯毛のもののおもなものに別珍(べっちん)(別名、綿ビロード・唐天(とうてん))がある。この添毛を使ったものは、糸の種類、仕上げにより、布面の光沢が強いものや落ち着いたものまで、いろいろの種類があり、地合いの透いてみえる薄地のものから、相当厚地のものまである。繊維は絹であったが、それに類似の人絹・ナイロンを使い、下級品には、木綿・スフも使われる。色調は濃紺(のうこん)、黒、えび茶、白などが多いが、ときには玉虫効果を表したものもある。用途は、婦人子供服地、帽子、肩掛け、室内装飾、椅子(いす)張りなど。
[角山幸洋]