改訂新版 世界大百科事典 「ビンロウ」の意味・わかりやすい解説
ビンロウ (檳榔)
betelnut palm
areca nut palm
Areca catechu L.
ビンロウジュともいう。栽培されるヤシ科の常緑高木。高さ20mに達し,幹は青竹のようである。葉は幹の頂に集まり羽状複葉で長さ約1.2m。肉穂花序は最下葉鞘(ようしよう)の基部の下から出てやや下垂する。雌雄同株で,花序の分枝の基部に雌花を,先の方に雄花をつける。果実はふつう卵形で橙色に熟し,長さ3~5cm,なかに1個の核がある。インドまたはマレーシアの原産で,東アジアの熱帯に広く栽培されている。ビンロウの果実は檳榔子(びんろうじ)といわれるが,薬用,染料とするため,奈良時代の756年(天平勝宝8)ころにすでに輸入された記録がある。未熟の果実を採集して繊維質の外皮をのぞき,胚乳を縦に2あるいは4分割し,これに石灰をまぶし,キンマの葉で包んで少しずつかじると麻酔的な効果により爽快な気分になる。これを常用すると口の中から唇まで真っ赤になる。また果実はアレコリンarecolinをはじめ,数種のアルカロイドを含有しており,薬用としても利用される。
この属Arecaは約15種が東南アジアからニューギニア,オーストラリア北部に分布し,ビンロウや他の種も観賞用に栽植される。
執筆者:初島 住彦
習俗
ビンロウの果実を割り,石灰を塗ったキンマの葉に包んでかむ風習(ベテル・チューイング)は,マレーやインドを中心として,北は台湾,東はカロリン諸島西部,西は西パキスタンに至るまで広く見られる。ベトナムにはこれの起源を語る民話があり,婚約や結婚式などの儀礼や客をもてなす際に不可欠の品とされ,男女の間では愛情の告白の印として相手に贈る風習もみられた。そこで,ベトナム人の間では〈ベテルをかみあうことは,すべての会話の始まりであり,それはまた,しばしば真の愛と幸せな結婚に導く〉といわれている。
執筆者:飯島 吉晴
医術
ビンロウの果実の生薬名を檳榔子という。中国では5~6世紀ころから文献に記載されるようになり,広州檳榔が知られていた。《医心方》にはいっさいの風病(ふうびよう)の治療薬として帝釈の呵梨勒(かりろく)丸の処方薬や,口内および衣服の芳香剤,鑑真の秘方の脚気(あしのけ)の治療薬などに使われている。《唐本注》によれば,北から入ってくるものは,まず,灰汁でよく煮てから火で乾かし,中の仁を腹が張ったときに搗(つ)いて粉末として服用したり,寄生虫や浮腫,おこりなどの治療のほか,三尸(さんし)を除くために使われていた。また,檳榔花(雄花のつぼみ)を夏に採り,煎じて芳香,健胃,清涼,止渇剤として用いた。嶺南地方でお茶がわりに服用したというのは,実ではなくて,このつぼみであろう。
執筆者:槙 佐知子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報